店頭で見つけた瞬間レジに持っていきました。7年待ってたよ。前作の主人公は神田だったが、今回は森野と、葬儀屋の人々である。森野についてあまりはっきりした印象はなく、つかみどころが分かりづらかったのだが、森野の一人称を基本として薦められていく本書では、森野のことが分かりすぎるくらいだ。
本作では森野がどんどんこっち側の普通の人間に思えてきて、本作では大学を卒業しアメリカに行ってしまった神田がむしろ遠い存在に思えるのは、前作と視点を真っ向から変えたことで得られる感覚だろう。単純に続きのお話を、そのストーリーとしての魅力もさることながら視点を変えることで心の動きを鮮明に表現することが出来ているし、前作を読んだファンの楽しみを満たすには十分だ。前作からの7年という時間も、子どもの部分が残っていた時代から、大人として地に足を着けて歩んでいるという、たしかな成長を感じられる。大人になって変わる部分変わらない部分を堪能できるのは単純にファンとして楽しい。単純な続編というだけでなく、時間をきっちり区切っていること、語り部を変えるだけでここまで楽しめるのかと思う。むしろ別物と思って読んだ方が自然なのだな、と思えるから面白い。
大きなポイントだと思っているのは、前作は死を前提にした心の動きを書いたものであったと思うが、本作は経験した死とどう向き合うか、である。どちらも人が生きていく上で経験していくことであるし、経験から得られる心の動きもまた異なる。「爪痕」にそれが顕著だろう。人の死が招くものは、故人の遺産のようなものかもしれない。誰もが現実を受け入れられるほど、人の死という事実は重くないということなのか。取り返しのつかない事態ということもだが、何より故人の思いとは離れたところに残された人の思いがあるということだろう。
7年間という時間、遠くにある神田の存在。それらの要素もさることながら、というかそれがないと本当の意味での醍醐味はないが、森野の葬儀屋の社員である竹井と桑田の存在がいい。竹井はどっしりとした、桑田は言ってしまえば雑な存在であるが、彼らが森野を日常的に一人にさせていないのである。非日常な存在になってしまった神田、そして7年間かけて手に入れた日常。本作は森野の人生の一部を垣間見るような感覚で読むことができた。その一部が森野にとっては大切な日々なのだろうと、思いをはせつつ。
タイトルの意味もなるほどね。