宮崎監督の前作『崖の上のポニョ』もそれなりに賛否が分かれていたと記憶していますが、今作はそれを遥かに上回る荒れっぷり。見るべきかスルーすべきか悩んでいる方も多いと思われます。
私見ではありますが、この『風立ちぬ』を面白いと感じるであろう人、つまらないと思うであろう人をまとめてみました。ご参考にして頂ければ幸いです。
面白いと思うであろう人
・将来の夢があり、今それを叶えるためにひたむきに努力なさっている方
・周りに反対されるような、必ずしもモラルに則ってはいないような恋愛をした事のある方
・やる、やりたい、やらねばと思ったことはマナーやモラル、法律を破ってまで成し遂げようとする方
つまらないと思うであろう人
・お金のために仕事をなさっている方
・家庭が大事で、家族が一番な方(
クレヨンしんちゃんの野原ひろしのような生き方に憧れる方)
・エンターテインメント至上主義な方 映画にはドンパチとハッピーエンドを期待している方
以上です。もちろんこれらの項目に当てはまったからと言って、必ずしもそうなるとは限りません。あくまで私個人の勝手な考えだとご理解ください。
さて、私は今作『風立ちぬ』を映画館で4回見ました。
ジブリ至上最高傑作であると思っていますし、今まで見てきた全映画の中でも五本指に入る大名画だと思っています。もちろんディスクも発売当日に買う予定で、かなり入れ込んでいるなと自分でも思うのですが、そんな私ですらこの映画をつまらないと感じた人がいることに別段驚きはありません。むしろ、つまらないと思った人の方が正常なんだとさえ思っています。
というのも、この映画の登場人物に共感できる人というのがごく限られているであろう事に疑いがないからです。
主要人物はみんなエゴの塊です。主人公は結核患者と同じ部屋でタバコを吸うし、当のヒロインも人に病気がうつるのも厭わず山を降りるし、主人公の友人『本庄』は仕事の為に嫁をもらう、上司黒川の更に上司服部に至っては「会社は全力で君を守る。君が役に立つ人間である間はな」と情も何もないような発言をする始末。普通、人からは理解されないような人物たちです。(唯一の良心は黒川夫妻2名のみですね)
ただ、そんなアウトローな人を見て共感し涙を流してしまう人間というのがこの世には幾らか存在しています。この映画はそういった人にだけ向けられた酷く戸口の狭い映画なのです。
主人公は夢を追い続け、最後には行き着く果ての果てにまでたどり着き、そこで地獄を見ます。
誰に理解されないでも自分の好きなことをやり続けている人。やらねばならないことがあり、たとえ金にならなくてもそれを達成しようとしている人。そういった人はあのラストの情景を見て身につまされる思いをすることでしょう。夢追い人の大抵は不幸な結末を迎えます。
ただこの映画の素晴らしい所は、そんなバッドエンドの中にも救いというか、爽やかさを残してあることです。ラスト、国は滅び飛行機は帰って来ず状況としては最悪なのにどこか朗らかな雰囲気が漂います。まさしく風の凪いだ後のような心地ですが、それは夢を追った末のズタズタな破滅にどこか憧憬を抱いてしまうからだと思います。
兎に角、未見の方は1度レンタルをすることをお勧めします。合う、合わないが必ずあります。そして合わなかった場合、別に誰が悪いとかそんなことは一切ありませんのでどうかご安心ください。むしろあなたは正常、まともな方です。
狭い戸口を通過して、また何度も見たくなる予感を感じた奇特な方はどうぞ購入ボタンを押してしまえばいい思います。
この作品には無数の切り口があります。上記の駄文はごく一部を切り取って主観で勝手に評したに過ぎません。あくまで参考までにしていただければと思います。