第二次世界大戦後の国共内戦は、日本人にとっては同時期の朝鮮戦争に霞んで印象が薄いように思われる。新聞で書名の見出しを見て、「こんな事が本当にあったのか?」というのが第1印象だった。根本中将が断行した戦後の在留邦人保護のエピソードも初めて知った。そこから始まる蒋介石との「義」。現代人には到底実行できないような出来事が、事実に基づいて生き生きと描かれている。何故、台湾が独立を保っているのか、金門島に拠点を持っているのか、恥ずかしながらこの本を読んで初めて理解でき、もっと深く知りたくなった。根本中将とその同志達については「義」の実践者として尊敬すべき先人であるとしみじみ考えさせられた佳作だと思う。日本人として、一度は読むべき本に推薦したい。
読後しばらく余韻さめやらず、様々な思いが脳裏をよぎった。
満州に隣接する内蒙古の日本軍司令官・根本博中将は、終戦直後、在留邦人4万、配下の軍人35万を従えて、本国からの武装解除の命にあえて反してソ連軍と戦いながら、
北京・天津を経由して日本への帰還を無事果たす。道中、助力してくれたのは蒋介石の国民党軍だった。
1949年、国共内戦に敗れた国民党軍は台湾に渡り、押し寄せる共産党軍と廈門・金門島を挟んで対峙するに至る。まさに破滅の淵に、根本博は少数の仲間とともに粗末な舟で危険を冒して渡海して参戦する。受けた恩義にただ報いんとするためである。
10月24日からの古寧頭の戦いで共産党軍およそ3万は壊滅。共産党の台湾侵攻は挫折した。しかし、この激戦に旧日本軍将校が参与していたことはタブーとなり、いまや忘れ去られようとしている・・・
私も根本博という武人の存在は恥ずかしいことに知らなかった。60年前にこんなサムライがいたなんて。
他にも明石元二郎の子息・元長、湯恩伯など多くの人物が登場する。資料、生存者のインタビューをもとに歴史ドラマが組み立てられ、語られていく。宮崎から台湾への密航はあたかも遣唐使船の苦行のようだ。金門海峡の戦いの様は
三国志演義の語りの如し。なんという筆力だ。
エピローグの「古寧頭戦役六十周年記念式典」の出来事に驚いた。馬英九総統が日本人参列者(著者を含む)に突然声をかけてきたというのだ。一陣の爽やかな風が吹き抜けたような気がした。
日中の歴史の埋もれた部分に光をあて、あの時代の人間たちの思いを蘇らせた好著。『甲子園への遺言〜伝説の打撃コーチ 高畠導宏の生涯』、『なぜ君は絶望と闘えたのか』等のヒット作をものにしてきた著者だが、本書は代表作の一つに数えられるようになるだろう。
いやあ、素晴らしい1冊だ。