死国 [DVD]
数多くの「ホラー・ムービー」の中でも「視覚的な怖さ」ではなく、「心情的な怖さ」と「切なさ」で心に残る「異色作」‥。最近の「不快感を伴う」ホラー作品が頻繁に制作されているが、この作品は少しそれらの物とは印象が異なる。これは「栗山千明」が演じる「莎代里」への感情移入と切り離せないでしょう。愛しい男性に対する「想い」から「生」に執着する「切ない心情」を、本作がデビューとなる「栗山千明」が圧倒的な存在感を与える!‥この印象が後の作品で「女優・栗山千明」を苦しめることになる‥。「長い髪・冷めた眼差し・異次元の美貌」、「クール・ビューティー」と評される印象から長く「脱却」できなかった。彼女の親友「宮崎あおい」と違い「器用な女優」ではないが、本作の「生まれついた美貌」から滲みでる「印象的な美しさ」は彼女ならではの「持ち味」でしょう。幼なじみの設定の「夏川結衣」も落ち着いた「美しさ」で本作を「彩る」。(同級生の設定だが、栗山は84年、夏川は68年生れで16歳の年齢差がある!)…本作を「生きている女と死を受け入れられない女の男の取り合い」みたいな評価があるけれど、「莎代里」の「生きて恋がしたかった‥」って言う「切なく儚い心情」が理解できればこの作品は観た人達に「忘れられない心に残る恋愛映画」として深く印象的な「異色ホラー作品」になると思いますよ…。
朱鳥の陵
わたしはこのところ古代史に関心があり、あまり小説というものを読むことはない。坂東真砂子氏のものは「山妣」「曼荼羅道」が印象的で、それ以外は掌編を読んだ程度だ。しかし、この「朱鳥の陵」には一読して、なおも興奮醒めやらず、こうしてレビューを書いている。小説としての価値に止まらない、瞠目すべき書である。
古代史の本、とくにアカデミックな学者のものは、概ね鳥瞰的・客観的な視点からのものが多い。もちろん、それは必要な視点だが、こぼれ落ちているものもまた、多いはずだ。小説のかたちをとると、当事者の視点が中心となるため、思いもよらぬ見地が炙りだされるる可能性がある。
古代史を舞台にした小説としては黒岩重吾氏のものが先駆的だが、坂東氏の「朱鳥の陵」には夢を読み解く職能者を登場させるという果敢な試みにおいて出色だ。心理描写、人間描写の卓越さのみならず、古代において人々を支配していた想念――現代でも人々の心の底に眠っていると思われる?――を縦横無尽に駆使して圧巻。坂東氏の力量には心底、脱帽した。それでいて、歴史的事実を細部にわたりきちんと踏まえている。普段、小説を読まない歴史愛好家にもお勧めしたい。
ただし、著者に要望したいことがあります。本作の着想に大きな、それも出発点というべき?インスピレーションを与えたものとして民間の民俗学者・吉野裕子「持統天皇」があったと推察される。吉野氏の著作は、巻末に参考文献に見出されはするものの、他の文献のなかに埋もれるようにあるにすぎない。もちろん、これを作品に仕立て上げた著者には感服するが、一方、故・吉野氏にたいし、もうすこし配慮があってもよかったと思われる。参考文献のなかでも特記するとか。あるいは、作品の形態が小説だと、この程度で済ますのが常識なのだろうか…。それでは吉野氏が可哀そうだ。
注文ついでに編集者へ:読み進めているうちに、なんか妙な感じだと気付き、よく見るとやや右肩上がりの斜字体になっていました。たしかに毛筆の場合、やや右肩上がりなるので、それに倣ったのかもしれません。工夫したのでしょうが、個人的な印象ながら、読みにくいと感じました。やはり活字は活字、独自の文化なのではないでしょうか。香気あふれる文体を損なっているように思いました。
【追記】古代史ファンでも古代天皇をめぐる人間関係、特に婚姻関係はこんがらかります。わたしは「天智と持統」(遠山美都男、講談社現代新書)を傍らにおいて本書を読みました。ご参考まで。
くちぬい
原発事故による放射能汚染を恐れて夫婦が逃れてゆくのは、作者が坂東眞砂子ですから、当然高知県の山の中です。
夫の竣介は陶芸が趣味ですから、この山奥でも窯を作り創作に励みます。
妻の麻由子はブログを開き、夫の窯のPRをするなど、順調に生活をスタートした筈でした。
ところが、この窯の位置が古くからの「赤線」にかかっていることから、いろいろな嫌がらせが始まります。
その後は、坂東眞砂子らしいストーリー展開です。
カバーに「この国にいる限り、逃れられない呪いがある。」と言う言葉が書かれていますが、これが作者の本当に言いたいことなのではと思えます。
短編復活 (集英社文庫)
創刊15周年を迎える「小説すばる」に掲載された短編から選りすぐった短編集。
赤川次郎、浅田次郎、綾辻行人、伊集院静、北方謙三、椎名誠、篠田節子、志水辰夫、清水義範、高橋克彦、坂東眞砂子、東野圭吾、宮部みゆき、群ようこ、山本文緒、唯川恵、という売れっ子作家のオールスター。こんな豪華な短編集は珍しいので思わず買ってしまった。さすがにどれも面白く外れなし。その作家さんが書きそうな、「いかにも」と言った短編ばかり選んでいる所も楽しめる。あまり小説を読まない人も、これを読めば気になる作風の作家さんが見つかるに違いない。もちろん短編小説好きの方は必読書かと。