生き物たちは3/4が好き 多様な生物界を支配する単純な法則
本書は「In the Beat of a Heart: Life, Energy, and the Unity of Nature」の翻訳です。「動物の標準代謝は体重の3/4乗に比例する。この3/4乗則に生命のもつ基本的な設計の原理が隠れている」と「ゾウの時間 ネズミの時間 ― サイズの生物学」(本川達雄, 1992)でも紹介されていた「3/4乗則」(Kleiber's law)ですが、当時は数式で導出できてませんでした。本書の前半では、この「3/4乗則」に関する歴史的背景と解決策が説明されます。物質/エネルギーの通り道である"血管"を最適に配管する原則をフラクタル科学(自己相似性)と流体力学の観点で数式化する と「3/4乗則」を説明できるそうです。(West, Brown, Enquist, Science (1997)(※)) 本書の後半では、この"自己相似性"と"エネルギー流"の観点が生態(メタ代謝)にも応用が効きそうだということが説明されます。
読み終えると「生物の世界も実は"経済的"なのかも?」と思ったりします。物理現象の大部分は「変分原理」(フェルマーの原理〜最小作用の原理)で統一的に理解できますが、本書で紹介される原理も「エネルギー流を如何に効率化するか?」という意味での"経済原理"と言えそうです。本書の物理学的アプローチは、生物のサイズ・形・寿命・個体数(分布)を理解する方法として『あると思います』。
本書では数式は殆ど出てきませんが、却って読み難いと感じるかも。(本川先生の本や"Life's Universal Scaling Law" (West & Brown, Physics Today (2004)も併読すると良いかも) べき乗則(フラクタル〜ネットワーク〜複雑系)の知見があると更に楽しめます。
(※)植物の場合は3/4乗ではなく1乗に近いという報告があります (Reichほか, Nature (2006))。
世界の測量 ガウスとフンボルトの物語
「ダビンチコードやハリーポッターを超えたドイツのミリオンセラー小説」なんていうので、手にとってみたのだけれど、ちょっと思惑と違いました。かなり大人向き。偉人伝好きの私としては、2人の天才が全く違う手法で、世界を理解しようとするその極端な生きざまは、面白かったです。ただし、文体がかっちりしているので、子供にはちょっときびしいかも。小説好き、偉人伝好きの中学生以上なら読んで楽しいかも。僕の記憶の中では、フンボルトもガウスも、たぶん中学高校の世界史で習ったとき以来、久々の登場でしたし、正直どんな偉人だったかも忘れていました、が、今回この本を読んで、かなり記憶に深く刻まれました。目的が同じでもアプローチの手法はひとそれぞれ、解き明かそうとする情熱こそが大切なんですよね。