青木雄二漫画短編集 (広済堂文庫―漫画文庫)
僕が漫画作家・青木雄二の作品で初めて読んだのが、『悲しき友情』であり、次いで読んだのが『淀川河川敷』であった。勿論、青木の『ナニワ金融道』が評価も高く、売れ行きも好調なのは知っていたが読んでいなかった。『悲しき友情』は、『ナニワ金融道』の題名からの拝金主義的なイメージと全く違う作風で驚いた。同作品の初出典の時代背景に、天安門事件・東欧革命・ドイツ統一・ソ連解体とマルクス主義体制国家が次々と崩れていた。当時は、経済学部の学生であった僕はマルクス主義経済学の教授等が混乱しているのを目の当たりにしていた。その中で、青木はマルクス主義をモチーフとした作品を発表したので驚きを隠せなかった。
この短編集には、青木自身による解説があり、そこまで踏まえてほしい。
また、『邂逅』は、ドストエフスキー『罪と罰』をモチーフとしている。手塚治虫にも『罪と罰』があるが、手塚は徹底したリアリストとして書いているのに対し、青木には「ヒューマニズム」がある。主人公はラスコーリニコフに匹敵する罪を犯していない。罪は巨大な組織にあるのだ。それは、青木がマルキシストなる故か?
後に、『ナニワ金融道』を注意深く読むと「帝国金融」の社員・桑田澄男の机には、マルクス経済学の書籍が並んでいるのに気付いた。また、青木のドストエフスキーへの傾倒を考えると『ナニワ金融道』は、『カラマーゾフの兄弟』で、主人公の「灰原達之」は「アリョーシャ」に見えてくる?
ご一読をしても損はしない作品ばかりである。