mania COBA
このCDの収録曲はほとんどがCMやテレビ番組で使われているものでこの
ジャンルに慣れていない人でも聴き覚えのあるものばかり。
アコーディオンというとときにロマンティックで、そしてときにエキセ
ントリックなのだが、COBAの演奏はそのどちらでもない気がする。
ヨーロッパ風のようでいて、どこか日本のノスタルジックな”やさしさ”、
”あたたかさ”、”せつなさ”、”さみしさ”のようなものが
根底にある。
非なるものが背中合わせに同居している、みたいに。
聴いていて癒されるのではなく、たのしくなるCD。
男の居場所 酒と料理の旨い店の話
「酒と料理の旨い店」が紹介してある。
但し、「ここ一番に接待に使いたい」「ふらりと寄りたい」
「この為に予定を捩じ曲げてでも」「薀蓄野郎など寄ってこれない」
「ふらり小旅行の目的地に」「昼下がりにまったりと」
という、色々な意味での「男の」居場所である。
勿論、お酒が呑めない御仁でもしっかり楽しめる所ばかりである。
但し、「大人である」事を体現できる人に行って欲しいが。
しかしながら、酒と肴の描写が独特だなあと思って読んでいると
「思わず股間を押さえたくなるような官能」のくだりを読んで膝を打った。
そう、「エロい」のだ。食べ物呑み物の評論でこの様に官能的に表すのは
今迄お目に掛かった事がない。五感に訴えるだけでなく、人の(特に男の)持つ
「欲」に直接訴える文章は妖しくも著者が恍惚に至る過程をつぶさに記している。
これに比べれば、ミシュランなどは「ここの店主は○○から直接手に入れた…。」
という様にさもありがたい御託がちりばめられているらしいが、
「どうせ一般人は行けないだろうから…」的なテイストが漂う嫌味な本でしかない。
男であれば読むべし。呑むべし。食うべし。語るべし。の一冊である。
熊の場所
最近,ぼくが一番嵌っている作家が,この舞城王太郎.デビュー作にしてメフィスト賞受賞作の『煙か土か食い物』を読んで,一発で嵌った.
舞城は元々はミステリー作家であるが,元々ミステリーのトリックは面白くなかった.突拍子もないトリックも論理も碩学もない.しかし,落とし方が巧いのである.まさにミステリーのもうひとつの醍醐味を味わえる作家である.
そして,なりより,流れるようなスピード感溢れる文体が素晴らしい.改行もほとんどせず一見読みにくいように思えるが,読み始めると一気に頭の中を舞城の文章が流れていく.この筆力はすさまじい.天性のものか.
本作品集『熊の場所』は舞城がミステリーから純文学へと枠を広げるきっかけとなった作品.特に2作目『バット男』が素晴らしい.こんなに琴線を掻き鳴らされたのは,ホーガンの『星を継ぐ者』以来のことかもしれない.
『バット男』は,社会的弱者に肉体的な危害を加えることでしか精神を保てない弱い人間と,どうしようなもいほどの馬鹿なカップルの救いようのない物語だが,舞城の表現している愛情と他者への攻撃性には,ぼくは共感を覚えてしまうのだ.この物語の登場人物は馬鹿だけれど,みんな馬鹿にならないように『バット』男に目を背けているだけに過ぎないのではないのだろうか.
他の2編,表題作の『熊の場所』は思春期の少年の持つ暗い感情と秘密という危うさを見事に表現していたし,『ピコーン!』のフェラチオ100万回で不良少年を矯正という馬鹿馬鹿しいなネタも結構好きだったり.
どの作品も適当な長さですぐに読める.まず,この一冊から舞城を読んでみて欲しい.