アルジュナ into the another world
牧歌的な少女の歌声に導かれて入っていくと、そこはブルガリアン・ヴォイスが怪しげに響く森の中だったりする。オーケストラ演奏とバンド、エレクトロが入り乱れ、えもいわれない快感をもたらす。菅野よう子の才能は雑多な要素を用いつつも、全体的なクオリティを落とさず維持できることである。豊富な語彙力で欠かれた短編集のようである。
また全編にわたって使用されている判別不可能な言語が音楽のもつ魅力を引き上げていることも注目すべき点だ。
「アルジュナ 2」~ オンナの港
「into the another world」も素晴らしい作品だったが、
こちらも傑作と呼べる出来。
「into the another world」よりも比較的アンビエント色が強く、
気楽に聴けるのはこちらの方かも。
しかし相変わらず一つ一つの音は洗練の極みで、
じっくり、耳を澄まして聴いていると
そのあまりの凄さに震えを感じることもしばしば。
シングルコレクション ニコパチ
「永遠に愛してる」「君だけ」「ずっと一緒にいよう」「守ってあげる」…この手の歌詞を聴くと鼻で笑い飛ばす根性曲がりの私ですが、真綾ちゃんだけは特別。
彼女の声と菅野よう子さんのメロディーで耳にする思いは、もう夢見ない年頃(笑)の私にも「信じてもいいよ」と語りかけてくれます。その感触は共感というより、「共振」する感じ。自分まで震え、鳴っているかのような。
この『ニコパチ』では「ヘミソフィア」「Tune The Rainbow」(ラーゼフォンは未見ですが)「指輪」「Gravity」の4曲がぐっときました。やはり真綾ちゃん&菅野さんは最強…
マメシバ
シングルコレクションに入ってないシングル。
これは、
日本のマーケティング事情に埋もれてしまったが、
J-POP史に残したかった名曲だ。
まず特徴的なのは、
Bメロとサビが、ふたつでひとつ・・という所か。
リスナーによっては、
サビが無い曲とも感じるかもしれない。
で、それほど起伏がある曲ってわけではない。
それでいて6分強という長さを感じさせない。
そのマジックによる不思議な心地よさは体感してもらうしかないが。
他でも書いたけど、この時代の彼女の魅力はノンビブラートで絶対的なピッチでまっすぐに訴えてくる所だと思う。
それが最大限に活きている、ロングトーンのサビ(Bメロの延長・・・)は確信犯的だ。
爽やかさだとか、疾走感だとか、
そういう要素を与えてるのは彼女のそんな歌声に外ならない。
実際、ドラムやたらと後ろにいるし。
ちなみに、プラチナもそうだったけど、
リズムセクションがいい仕事し過ぎ。
アウトロまで我慢してましたー!
みたいな。
特にベース笑える。
ウタモノのドラムやベースをやる人も絶対聴いたほうがいい。
ラストの8ビートは、
Maaya、そして演奏陣と走り抜けよう。
もう一度スタートを切るのもありありだ。
1000円でMaayaを始めるならコレかもしれない。
EMOTION the Best 地球少女アルジュナ Director's Edition DVD-BOX
今だからこそ、この作品について語りたい。
自分は、普段からアニメを頻繁に観る方ではないので、あまり偉そうな事は言えないかもしれないが、この十数年の間で創られたアニメで、どんな人にでもお勧めしたい作品は、と訊かれたら迷わずこの「地球少女アルジュナ」の名を挙げる。
東日本大震災が起こり、多くの人が犠牲になり、平穏な生活を奪われた人々が辛い避難生活を余儀なくされている。関東も地震直後、ヒステリックな買占めが横行して、今まで見たことがなかった「スーパーの棚が一列全部空になる」という異常な光景が日々当たり前という事態が続き、現在、一部商品はやや戻ってきてはいるものの、手に入らない商品は依然として手に入らない。(因みに筆者は買占めなどには絶対加担するつもりはない)
海外のメディアは、日本人は大災害に見舞われても、暴動は起こらず、秩序をもって礼儀正しく、他人への思いやりを忘れない、と褒めたたえているが、本当にそうだろうか?実際に、ガソリン泥棒などは横行していると聞くし、何よりも「買占め」ほどあさましい行為はないのでは?日本人は、自分の見えない相手に対しては、とことん冷たく、無礼極まりないと思う。
苦言ばかり並べてしまったが、本作「地球少女アルジュナ」は、現代文明が抱える、様々な問題や矛盾に向き合い、我々に問いかけてくる作品である。
バイクの事故で、瀕死の重態に陥った少女・樹奈。彼女は謎の少年・クリスの声を聞き“ラージャ”と戦い「清める」ために新たな命を与えられる。しかし「地球の声」を聴く力を与えられた彼女には、多くの思わぬ試練が待ち受けていた・・・。
樹奈が向き合わなければならない相手は「敵」や「悪」といった判りやすい存在ではない。ラージャは、人間の文明が生み出した矛盾を象徴する存在、なのだ。ラージャを倒した樹奈に向かってクリスは言う「愚かな・・・なぜ倒すのだ」と。
第1,2話では、まさに原発の事故が描かれる。そして、エコロジー、自然との共生、食料問題、コミュニケーション不全、性同一性障害、中絶、ライフライン・・・など、我々が現代文明と呼ぶ社会の中で、気づきつつも見てみぬフリをしている問題に次々とメスを入れ、鋭く問いかけてくる。主人公の樹奈は、ほとんど禅問答の如き戦いを繰り返し、何度も「ウチ、もう判らんわ!」と叫ぶ。
そして最終回では、原油を喰らい尽くすラージャによって、ライフラインが絶たれ、いとも簡単に日本の社会は崩壊してしまい、人々は呆然と立ち尽くす。それは3.11の直後に、通信・交通網が麻痺してしまい、人々がパニックで買占めに奔った関東の状況にあまりにも酷似している。
十年ほど前に放送された時、この作品はほとんどのアニメオタクからは黙殺された。この作品には萌えも、派手なメカアクションもない。ほんの一部の、熱狂的なファンから高い評価を受けただけで、現在はほとんど忘れられつつある。十年前、このアニメの中で描かれた物は「ありえねーだろ」と一笑に付されるような事だったから・・・。
いま、私達はこのアニメを笑う事はできないはずだ。我々が日頃、どれほど脆弱なものの上にあぐらを掻いて生きていたかが、今回の大震災で証明されてしまったからだ。
自然の災害を想定して、完全に予防することはできない。しかし、だからこそ日頃から問題意識を高く持って、事が起こった時に毅然とした行動をとれる人間にならなくてはいけないのではないだろうか?
この作品は、多くのテーマを提示しすぎて「回収」しきれなかったドラマなのではない。これは、我々に向けてひたすら「問いかけ」てくる作品なのだ。
作品が、様々な問題にに警鐘を鳴らしていた、とか予見していたのか、といった事が重要なのではない。一人一人の受け手が「どう受け止めるか」が重要なのだ。
いまだから、多くの人にこの作品を観てもらいたい。そして考えてもらいたい、と思う。
いつかまた大きな災害がこの国に起こった時こそ、我々は世界に対して本当に胸を張って誇れるような行動をとれる日本人でありたい、と思う。