キャベツの新生活 (講談社文庫)
シンプルで都会的なライフスタイルに身を置きながら、
人を傷つけないやさしさを持つ“キャベツ”という主人公に癒されます。
それはキャベツが、人の話を「聴く力」があるから。
「キャベツといると、人の好きになり方を思い出せそう」というキウイ。
日を追うごとに愛されていたと実感する夏帆。
その言葉、ふるまいが、仕事に疲れた深夜の頭に
やさしいヴェールとなって包みこまれるような余韻が残り、
眠る前は傍らにこの本を置いて、
少しずつページをめくっていくことが日課となりました。
単なるラヴストーリーに終わらせない、
結末の意表をついた構成。
主人公の、生きている痕跡を残さないような
簡素な暮らしぶりの意味が最終章で理解できます。
タイトルの「新生活」が何を指すのかも。
表紙に描かれている抽象画も
この作品の心憎いキーワードになっています。
身がわり―母・有吉佐和子との日日 (新潮文庫)
上質な文章。デビュー作にもかかわらず、非常に美しい文章である。今になって、この点は母親から譲り受けたものかもしれないと思う。
読んでいると、ただ、作家とその娘というのではなく、もっと普遍的な情愛のようなものを感じ、切なくなる。
この本で有吉佐和子を知った私は、その後有吉佐和子の本にもはまった。教科書で触れる機会のなかった有吉文学に触れることができたのは本書のお陰だったと思う。
この本は、それ自体優れた随筆であり、そしてまた有吉佐和子への丁寧な招待状であるといえよう。
キャベツの新生活
無機質で他人との関わりを持たず、なにも所有しようとしないキャベツとキウイが読み進めていくうちに次第に生き生きとしてくる。
自分の欲するものを見極めたときの彼らの行動がもどかしくもあり、共感出来ます。
流されるようにただ日常を過ごしている自分がいるならおススメ。
ラストの衝撃にもガツンと来ますが、そのどんでん返しよりも最後のキャベツの行動に感激しました。
輝きの一瞬 (講談社文庫)
いわゆるショートショートが30編、どれも10ページ前後で気軽に読める。
短いだけに、ストーリーにメリハリをつけるのがかえって難しそう。
「これは」と印象に残ったものをいくつか。
落合恵子『探偵ごっこ』。公園に行くおじいちゃんを探偵ごっこで、こっそり尾行する孫。ほのぼのとした結末。
高橋三千綱『相合傘』。ある雨の日の出来事、その後の中年男の寂寥感。
小沢章友『死の天使』。研修中の看護師が壁に貼っていく手作りカレンダー。本格ミステリに匹敵するショートショート。
ぼくたちはきっとすごい大人になる
小学生の子供たちを主人公にした小編からなりたつ短編集。子供の視点からみた大人や子供同士の社会など、すっかり忘れ去ってしまった「子供感覚」を久しぶりに思い起こしました。といっても現在45歳の有吉さんが書いているので、子供の視点にはおよそ子供らしくないような、成熟した大人の視点も入り混じっています。
会社への通勤の往復1時間半で読み終えることができ、肩のこらない短編集でした。