隗より始めよ―小説・郭隗伝
故事「まず隗より始めよ」の語源となる、中国戦国の燕の郭隗の生き様とその時代を描く。近来稀に見る文学性の高さに加えて、老子、荘子、樂毅ら古代のオールスターが顔をそろえる、まさに諸子百家勢ぞろいなのだが、それを陳腐な物語にせずに、あくまでも郭隗の目線に徹しているのが、好感がもてる。むろん、大方の人が期待する故事の周辺はまさに圧巻で、不透明な現代にも大いに通用する策である。ともすれば派手な中国古代小説にあってさわやかな印象をあたえるのは、まさに荘子を思わせるのだが、これは作者の人柄なのであろう。もしかすると、今年度で最高の歴史小説なのかもしれない。
河井継之助―信念を貫いた幕末の俊英 (PHP文庫)
河井継之助を知らない人には読みやすい内容に完成されているでしょう。ページ数はありますが、河井継之助の詳細、快男児ぶりがよくわかり納得します。政治家の小泉純一郎氏が首相就任時に小林虎三郎の「米百俵の精神」を強調しましたが、その小林虎三郎とのやりとりもあります。本作品は主人公の言葉は越後弁になっています。
小説 王陽明〈上巻〉
王陽明の生涯を読んでいると、何とも言えないやるせなさがこみ上げてくる。陽明は、誰よりも朝廷に忠誠を尽くして、功績をあげた人でありながら、その朝廷に殺されたといえる人だからだ。
陽明はその生涯で三度兵を指揮した。朝廷でも手におえなかった札付きの賊徒がはびこる騒擾の地へ放り込まれ、電光石火の奇襲戦法によって、次々に賊徒の巣窟をつぶし、寧王という藩王の謀反をわずか14日で鎮圧した。そして生涯の最後に、病躯をひきずりながらも瘴癘の地の反乱鎮圧に赴き、その地を鎮撫した。しかし、それに対し、朝廷は恩でなく仇でむくいた。陽明の功をねたんだ奸臣らは、寧王の謀反鎮圧という陽明の功を横取りしただけでなく、逆に陽明の弟子をとらえ拷問にかけ、陽明を謀反の首謀者に仕立て上げようとしたのだ。さらには何の罪もない良民を、寧王の残党としてとらえ殺し、それを自らの手柄とした。もはや正気とは思えない悪魔の所業である。王陽明の生涯は、我々に、人間とはかくも高潔に生きられるのだと示す反面、人間ここまで腐れるのかとという負の面をも示し、そしてどちらも人間なのだと教えてくれるのである。
この小説は、作者独自の創作はあまりない。小説としては、もっと創作をいれた方が面白かったかもしれないが、王陽明の生き様を如実に我々の目の前に蘇らせてくれていると思う。
擾乱1900―混沌の大陸に生きた日本人三兄弟の夢
何はともあれ読後感が最高にいいです。
最初はやや硬いなぁ…という感じで
あまり期待しないで読み始めたんです。
特に義和団の乱の件なんて淡々と書かれていて
ちょっと面白い教科書を読んでるような気分でした。
が、その後、急に物語っぽくなるんです。
いい意味で事実っぽくなくなってくるというか・・・
これぞ擾乱、という感じで大陸的にゆったり大きく盛り上がります。
実在の人物が散りばめられているのも、適度に現実味があっていいです。
ラストは、好みは分かれると思いますが私的には最高です。
全体にさっぱりとした悲壮感があったので
こういう風に終わるとは少し意外でした。