ドビュッシー:ピアノ曲集第2集~映像、他
映像第1曲『水の反映』冒頭から幻想の世界へ誘ってくれます。この感覚、他の演奏家の演奏を聴くと実感できると思います。音色が聴き手の神経を逆なでしないからだ、テンポに追われない生身の息継ぎをしているからだ、というのは後から言える理屈です。
ちなみにこの演奏の正統性はドビュッシーと交流があったマルグリット・ロン女史がフランソワの先生である、ということで安心できるはずです。
文句なしの星5つです。
ショパン:ノクターン&プレリュード集
46歳の若さで夭逝した天才ピアニスト、フランソワの弾くショパンのノクターンとプレリュードです。フランソワにしては非常に丁寧で模範的な演奏となっており、録音状態も良く、これからショパンを勉強してみようかという方にも自信を持ってお勧めできる名盤です。
CHOPIN (ショパン) 2008年 06月号 [雑誌]
「20世紀の大ピアニストたち」シリーズ第4回に登場するのは、1970年に46才で急死した、鬼才とも呼ばれるサンソン・フランソワです。私もピアノをたしなみますが、中学2年でベートーヴェンの3大ピアノソナタの廉価版をたまたま購入したのがサンソン・フランソワとの出会いでした。それ以降、ショパン、ドビュッシー、ラベルの演奏は基本的にサンソン・フランソワのLP・CDを基本に購入するようになりました。ホロヴィッツのピアノの弦が切れるかのような演奏も良し、アルゲリッチの素晴らしく早いテンポと比類ないテクニックも良いのですが、コルトーに続くフランスの古きよき時代の最後を飾るのは、サンソン・フランソワをおいては他にありません。近年の正確なピアノテクニックを競う演奏ではなく、即興的なショパンのテンポルバート、聴く者を唖然とさせるエチュード、もう何も言葉のでないポロネーズ、自由闊達なショパンに対して、何故か非常にまじめに模範的な演奏を残しているドビュッシーとラヴェル、20世紀が生んだ4番目ではなく1番目のショパン演奏家だと私は思います。この雑誌が絶版になる前に、注文されることをお勧めします。フランソワの残した貴重な言葉も載せられています。サンソン・フランソワという演奏家の人間像に迫る特集です。
ラヴェル:ピアノ名曲集 1
EMIベスト100プレミアム・シリーズの一枚で、これまでにリリースされたサンソン・フランソワの同曲集の中では最も音質に優れているのが特徴だ。具体的に言えばHQCD化によってピアノのまろやかで潤いのある音色が再現され、一音一音の持つ量感も感じられるようになった。こうした音質の改善によって、彼の自然発生的な変幻自在の表現を、サロンで間近に聴くような臨場感が得られたことは幸いだ。また価格の面では今回の大幅なプライス・ダウンも評価できる。ただし余計な詮索をすれば、ライバル製品のブルースペックCDと口裏を合わせたように同価格になったことや、なぜ最初からこの値段でHQCDを販売できなかったのかという疑問が残るのも当然だろう。
この稀に見る感性を持ったピアニストの飛翔するようなファンタジーと、至って自由な即興性の閃きがラヴェルの音楽を煌めく宝石のように仕上げている。彼の解釈はラヴェルの演奏にありがちなドライで即物的なものではなく、常にヒューマンなぬくもりがあって、しかも千変万化する夢幻的な可能性を秘めている。『夜のガスパール』での奔放で鬼気迫る表現や、繊細な透明感とラヴェル特有の形式感とのバランスが絶妙な『優雅で感傷的な円舞曲』、そしてそこはかとないメランコリーと木漏れ日のような陰影に彩られた『クープランの墓』など、どれをとってもフランソワならではの華麗な曲集だ。
ショパン:27の練習曲
本来なら練習曲に派手な個性や独特の解釈などいらないのかもしれません。
技巧的なことより、表現力や斬新な解釈で有名なフランソワですが、
このショパン練習曲でも存分に魅せて(聴かせて)くれ、
またこの練習曲が芸術作品としていかに完成されたものか知らしめてくれます。
私が度肝を抜かれたのは、特に25-11「木枯らし」。
身を刺すような厳しい風に、切なくも荒々しく舞い散る葉、
その中にまるで私自身がたたずんでいるような感覚に陥り、
狂気すら感じる凄まじさにしばらく茫然としてしまいました。
こういったショパンもぜひ聴いて欲しいです。