試練が人を磨く 桑田真澄という生き方 (扶桑社文庫 く 8-1)
プロに入ってから数年の彼は、完全に悪役だった。引退した今、やっと否定的なイメージは薄れ、むしろ中年の星のような存在になった。悪いイメージがマスコミにより植え付けられたのはあのドラフト事件からだった。本書を読んで真相が分かる。彼は、ドラフト当日から数えて100日前から毎朝、毎晩、お祈りをしていたのだと言う。祈りの内容は「僕にとって最高の道をください」というものだった。そして、巨人以外から指名されたときのために大学受験の勉強をしていた。巨人密約説は全くのでっち上げなのだ。誤解を生んだのは、弁明をしないという彼のポリシーによるものだったのかもしれない。その後のスキャンダルのときも彼は弁明をしなかった。そして現役の間中、自分の生き方を貫いた。高校時代、朝5時半に起きてトイレ掃除、グランドの草むしりをして、お祈り、それから練習。それを楽しくやっていたという。そんな彼もプロで洗礼を浴びて、自暴自棄になりかけるが、そんな彼を変えたのは、グランド・キャニオンの大自然だという。仕事に対し努力すること、精一杯頑張ることがプライド、だからプライドを傷つけるのは自分自身でしかないという言葉にはプロフェッショナルとしてだけではなく、桑田真澄という人間の精神的な強さを感じる。
熱闘!日本シリーズ 1987 西武-巨人 [DVD]
前々年ドラフトにおける驚きの指名から約2年が経った後、かつ同年オールスター以来となるKKコンビの公式戦対決。この年は後楽園球場最後の年であり、その最後の公式戦が、この年の日本シリーズ第3・4・5戦となりました。
両者の対決はその後幾度か日本シリーズでありましたが、この年の日本シリーズが1番初々しく、見ものではないでしょうか。
いつ見ても、第6戦9回表2アウトで涙する清原の姿が印象的です。
また、第5戦5回裏で、西武・辻の職人芸とも言える守備が見られます。
そして嬉しい事に、このDVDには87年のオールスター第3戦(甲子園球場)で、清原が桑田からホームランを放ったシーン、江川が現役引退を決めた広島・小早川の逆転サヨナラ3点ホームランのシーンも収められています。
伝統の一戦 阪神VS巨人70年史 [DVD]
本作は阪神・巨人戦の歴史の中から名場面を選りすぐり、阪神サイドから光をあてた阪神版。私は巨人ファンだが関西で生まれ育ち、毎日阪神の記事が一面のスポーツ紙を家でとっていた。したがって、阪神の選手たちにも思い入れがある。私がプロ野球に一番熱中していたのは巨人のV9中期から長嶋巨人初期にかけて毎年のように巨人・阪神が優勝を争っていた時期である。残念ながら、戦前から江川・小林の因縁の対決の頃までは、ナレーターこそ違うけど(本作では月亭八方)巨人版と同じ映像が使われている。王の素振りの場面まで本作に入れる必要があったのだろうか。この時期で巨人版にあって阪神版にないのは王の1試合4打席連続ホームランの試合ぐらいである。私が一番思い入れのある村山・江夏・田淵の映像が阪神版にしては少ないのが物足りない。
阪神版が独自色を出すのは85年から。そのシーズンのTG第1戦、伝説のバック・スクリーン3連発の第2戦など、あの年の阪神打線の凄さを見せつける試合が次々に紹介され、最後は55号を打たれないように巨人投手陣がバースを敬遠する、巨人ファンには恥かしい場面で締めくくられる。その後、阪神は長い暗黒時代を迎えるが、92年の亀山の活躍、新庄や井川の台頭、代打八木の活躍等で巨人にサヨナラ勝ちした試合が多く収録されているので、阪神ファンは満足できるだろう。巨人版ではこの頃はホームランで勝つ試合が、阪神版ではヒットを積み重ねて勝つ試合が多く紹介されている。野村監督の時代には開花しなかったそのこつこつ野球が、星野・岡田両監督の下での優勝に結びついていく軌跡がよくわかる。
本作に登場するには、魅力ある日本プロ野球の歴史を作った阪神・巨人の名選手たちばかりである。熱い対決の伝統が今後も引き継がれることを願ってやまない。
古武術の発見―日本人にとって「身体」とは何か (知恵の森文庫)
この本は、甲野善紀氏と養老孟司氏による対談形式になっていて、副題通り「日本人にとって身体とは何か」ということが、主に古武術と解剖学の観点から論じられています。2人とも難しいことを話しているのですが、対談形式なのと、博識な両氏が良い例を引用しているので、分かり易く、読んでいても飽きません。
「タメをつくると"居つい"てしまう」や、「身体の各部をバラバラにして、別々に独自の動きをするようになると、さらに微妙な気配の出にくい動きが可能になる」という説明は、大発見をした武術家にしか言い出せないような事実のように感じます。
野球を学問する
もともと学究肌で、あのドラフトのときも早稲田進学を第一に考えていたほどだし、現役時代のクレバーな投球術には定評があったから、桑田氏にそうした素養があるのは確かだ。
だから、正式な学歴は高卒なのに、大学院進学、それも憧れて止まなかったワセダとなれば、世間が騒ぐかどうかに関係なく、相当の努力で結果を出すだろうとは思っていた。
だがその成果は、最優秀賞そして総代と、非常な充実ぶりだった。
じつは、帯に「最優秀論文賞受賞」とあったので、100枚近いと報じられた分量の論文が全文掲載されているか、と早合点した。実際はそうではなかったのだが、むしろ、論文のエッセンスを氏自身が噛んで含めるように語ってくれたことで、じつによく理解でき、いちいち納得、共感できた。
当欄で、飛田穂洲の基礎理論に関し、他書と比較考察されたレビューを拝見した。もちろんその意見にも一理あることは素直に認める。
だが、氏も論及しているように、飛田の論は戦時中の精神昂揚などにも“悪用”されたものだ。そうした、ともすれば誤解されそうな過去の理論に現代的解釈を施し、その根本精神を覆すことなく、新たな理論として構築し直したことは、率直に“業績”という表現で称賛されてしかるべきだろう。
研究生活中、野球以外のスポーツも数多く観戦し、それらにも通ずる考察を重ねたとのこと。結果、野球に留まらず広くスポーツ界に応用できる素晴らしい理論がもたらされたと思う。
これで、過去の誤解や因習が取り払われ、より合理的かつ効果的な訓練手法が開発され、より有為な、世界に伍し得る人材が育成されていく・・・そんな期待が膨らむ。
地道な基礎研究の成果は数十年のスパンで見なければ測れない。多くの指導者層が“学問”し共感し、後進の指導に実践してほしい。少なくとも、負けて「切腹したい」などと口走らぬよう・・・。