DRAMADAS 伊藤潤二+山上たつひこの謎さがし 戦慄の旋律/おろし金にしろい指 [DVD]
「戦慄の旋律」と「おろし金に白い指」
ともに漫画原作があります。
ホラー的あおりのジャケットですが、どちらもホラージャンルに分類してしまうのは難しい作品。主人公が日常のひとつのアイテムからふとしたはずみでその謎に迫っていくというのは共通。
戦慄の方は時間も短く、やや直球のサイコホラー?でしょうか。聴く者を例外なく虜にしてしまうタイトルも歌手も不明なスキャットのアナログレコードが題材。どうしてもそれを自分のものにしたくなり、友人から盗んでしまう主人公、逃亡の途中で彼女はそのレコードの秘密を知ってしまうことに。そして…
おろし金に比べるとすっきりとまとまっていて、きっちり終わります。
おろし金の方は、不条理ミステリーといった趣で、基本シリアスな作品でありながら原作者の不条理ギャグテイストが色濃く出ている作品。連続ドラマ形式の1時間程度の尺。何度見直しても謎が残るあたり、不条理でしか片付けられない部分があります。
主人公は二世代同居世帯の専業主婦、姑さえいなければ…という環境です。そういう専業主婦を冒険に駆り立てるアイテムは、あまりにも切れ味の鋭いおろし金。時を同じくして実家に戻ってきている義理の妹や最近出没する下着泥棒といった要素も主婦の冒険をあと押ししていきます。
結局は謎は謎のまま、解決するのは全然別件だけという結末、もやもやさせてくれます。
ラストの熊用のわななどドラマ的には完全に蛇足ですが、原作者テイストを出すには不可欠だったりして評価の難しいところなのです。
どちらも後のJホラーブームを支えたスタッフの20年以上前の作品です。
憂国のラスプーチン 3 (ビッグ コミックス)
佐藤優のロシア関連の著作を読んでいて、もっとも印象に残る人物の一人が、
かつてエリツィンの側近として旧ソ連の崩壊を演出したとされるブルブリスだが、
(ちなみにもう一人は『自壊する帝国』のサーシャ)、この巻ではいよいよ
ブルブリスが満を持して登場し、しかも彼の愛猫が初対面の憂木衛を眼力で
負かしたりするのだから、ブルブリスファンと猫好きにはこたえられない一冊だ。
さすがは猫漫画の傑作『よん&むー』を描いた伊藤潤二という感じだが、
ロシア要人の邸内の様子などもよく取材されているし、この巻では本来の
怪奇漫画家としての本領も存分に発揮されていて、いよいよ調子が出てきたな、
という感じがする。(作中、中吊りで自作『うずまき』が絶賛されているのと、
鯉渕が都築に「感動した!」と叫ぶ場面には、読んでいて大笑いだった。)
ちなみにこの巻では、カルテンブルンナーなる怪しげなスウェーデン人が
登場し、その裏にいる黒幕が、サスコベッツと次期大統領の座を争った
チェルノムィルジンだということになっているが、この流れは佐藤優の
著作ではあまり大きく取り上げられていなかった気がするので、漫画に
再構成する際のシナリオ作りの妙を感じさせられることにもなった。
富江 [DVD]
伊藤潤二原作、ホラー漫画の映画化第一作。
このじわじわと周囲を狂わせて行く、静かな不気味さがいい感じ。
とにかく「富江」を演じる菅野美穂の、吹っ切れた怪演が光っています。
なんと、○○○○を食べる役なんて!
このころ菅野美穂は「催眠」でも怪演しておりました。
そして、脇を固める洞口依子、田口トモロヲの存在も重要。
作品が引き締まってます。
ラスト・カットまで見逃さないで!!印象に残ります。
伊藤潤二傑作集5 脱走兵のいる家 (あさひコミックス)
2011年3月発売・あさひコミックス 伊藤潤二傑作集5のレビューです。
収録作
1.バイオハウス
2.顔泥棒
3.睡魔の部屋
4.悪魔の論理
5.屋根裏の長い髪
6.シナリオどおりの恋
7.リ・アニメーターの剣
8.父の心
9.耐え難い迷路
10.サイレンの村
11.いじめっ娘
12.脱走兵のいる家
2の何者でもないタイトルロールの人物が己の運命を哀しげに語る等、3,4,5,8,11,12話の余韻は後の伊藤作品のユーモアより恐怖と哀感が勝っています。
個人的には伊藤氏の作品に嵌るきっかけとなり、園子温監督の「エクステ」との共時性を感じさせる「屋根裏の長い髪」が新版で読めて幸甚でした。特にラストの1コマはなんとも言えません。
憂国のラスプーチン 1 (ビッグ コミックス)
すでに「国家の罠」を3回ほど読んだ私は、「ああ、例の話だな」と
追体験するようにこのマンガを読みましたが、そうでない私の家内も、
意外にも夢中になっていました。
このマンガは、ラーメン屋などでパラパラとめくりながら
一人で食事をするときの「お供」のようなマンガではありません。
はまってしまうとラーメンがのびてしまいますし、
興味をもたなければ、このマンガをお供にしたことを後悔するでしょう。
このマンガが、読む人に近づいてくることはありません。
読む人が自分から近づくマンガです。
そんなマンガはいらん、ということなら買わないほうが無難。
しかし、こんな人にはおすすめです。
・「大阪郵便不正事件」などで検察の取り調べ方に関心をもった人
・官僚たちの考え方がどうなっているか知りたい人
・世間でいわれている真実とは、決して一つではないのではないかと思う人
・2回、3回と読めることで「ひとつぶ(一冊)で二度おいしい」効果を得たい人
「国家の罠」を読んでからこのマンガに入ると、絵によるイメージ化で
追体験ができて楽しいと思いますが、マンガを読んでから「国家の罠」に進んでも
よいかも知れません。
他の方が書いておられたように、どうも主人公憂木と実物の佐藤優さんの
声と現在の姿がかぶらないのですが、その点は割引くしかないですね。
いずれにしても、「国家の罠」でかかれた検察の取り調べ方は、当時なら
読者も半信半疑だったかも知れませんが、このマンガを通して現在を認識すると、
「きっとそうなんだろうな」と違和感なく読者に受け入れられるのではないでしょうか。
その意味では、検察官にも歩留まりの意識をもたせて、ヘタなことが今後は
できにくくなり、それは国民の利益にも、彼ら検察官の利益にも叶うものだと思います。
その意味ではとても重要な要素を秘めているマンガといえるでしょう。