坂の上の雲〈1〉 (文春文庫)
司馬遼太郎の小説は、歴史小説であるにもかかわらず、終始、いま現在とリンクしている。例えば山崎の合戦の箇所を説明する段になると、「新幹線から見える大山崎辺りのサントリーの工場・・・・・」って感じで、今を生きる日本人の股間を刺激する文章で、これがまた心地よい。だから、よく読まれ、人気があるのだろうか。歴史小説であるのに、歴史の順番に書き連ねていくって言うふうではなく、思いつくまま、寄り道しつつ主街道を歩んでゆく。
というわけで、国民小説にまでなってしまったこの「坂の上の雲」、第一巻の最初の章は、秋山信三郎好古の幼少の頃から騎兵に志願するまでが一気に進行する。次の章では、弟の真之。ここも、スピード感一杯で、生い立ちを述べたかと思いきや、いきなり日本海海戦幕開けの有名なキャッチ・コピー「天気晴朗ナレド浪高シ」は、この真之が起草したものであるということが、第一巻の三分の一もいかないところではやくも紹介されている。こうなると、このエピソードは、ここで、忘れないところで、書いておこうという感じで書いているようである。
もう一人の主人公、正岡子規の紹介も手抜きがない。明治の偉大なジャーナリスト、陸羯南の必要最小限の紹介文も早くも現れてきて、これまた読者にはうれしい。
司馬遼太郎は登場人物の個性を書き分けるのが、頗る達者なので、またしつこい位にその出てきた個性を根掘り葉掘り書き連ねるので、顔と名前が一気に一致する。だからたとえ脇役であっても、そう簡単には、登場人物の名前を忘れない。司馬の作品は読んでいて、個性が浮かび上がる・風貌が目の前に立ち上がる・ビジュアルであるという特徴がある。だから大河ドラマに何度も取り上げられるのだろう。
仰臥漫録 (岩波文庫)
子規が没する前年の九月から明治三十五年の死する直前まで記した日記。
これは、新聞などで公開する意図で書かれたものではないので、墨汁一滴や病床六尺とは一味違った子規の思想や生活が垣間見る事ができて大変興味深い。
カラーで無いのが残念だが、子規の写生に基ずき描いた草花や果物の絵も載っており、記した毎日の献立を見ていると子規のその健啖ぶりに驚かずにはいられない。日々煩悶、号泣しながらも野心を捨てず己を奮立たせ闘っていた子規の姿には現代を生きる私達に多くの事を与えてくれる。是非読んで下さい。
歌人の心情を詠んで偲ぶ。 覚えておきたい短歌150選
今回このCDを購入してとてもよかったと思います。昔教科書で学んだ幾つかの歌も、このCDの朗読を聴いていると新たな発見が必ずあります。
それと知らなかった歌も突然その味わいに驚くことがあります。今回当たり前かもしれませんが、いかに与謝野晶子が天才であったかを知ることが出来ました。若い皆さんにはとてもお勧めできますし、私のような中年ビジネスマンにももってこいです。毎日通勤の車の中で何度も聞いています。聞くたびに深くなる味わい・・きっとあなたにも新たな出会いがあるはず・・。もっともっと知りたくなる・・そういうきっかけを与えてくれるCDです。
病牀六尺 (岩波文庫)
この随筆集を読むと、正岡子規という巨人に
ますます興味を持つことになるでしょう。
話題は多岐にわたるものの、
彼が貫く価値観や物事を見る目がいかに鋭いか
がわかります。
絵画、芸術、俳句、詩を見る目は、非常に一貫しており、
そこに一点の妥協も許しません。
どこから見たのか、どういった動作なのか、どういったものなのか。。。。
をあいまいにすることなく、厳しく追及して見抜いてゆく目、
いわゆる写生。
それゆえに、没して100年以上たつ今でも、彼が愛される
ゆえんかもしれません。
読み継がれるべき本の一冊だと思います。
子規に感謝。