現代思想2011年9月臨時増刊号 総特集=緊急復刊 imago 東日本大震災と〈こころ〉のゆくえ
川上未映子さんの詩が素晴らしい。声に出して読むのにとてもよい詩です。
中井先生と神田橋先生の文章は、長年のファンだからもちろん読むけれど、
お年を召された印象が強い。
私は勝手に想像する。中井先生が、この雑誌がお手元に届いて川上さんの詩を読み
微笑む場面を。
どんな人でも、自分より若い人によってなぐさめられる。
震災の現場でも、そうではないかと思う。
文明の子
テレビの太田光より、すごくピュアで、素直で、単純で。
著 太田光
というだけで様々な第一印象を拭えないけど、そんなことがぶっとぶくらいの作品の力がありました。
2作目が出て、前作の「マボロシの鳥」と比較するとやっぱり「マボロシの鳥」は太田光が強かったなぁと思いました。
処女作より2作目がはるかに面白くなっていて、本人も「マボロシの鳥は駄作だ!」と言っているのを聞きました。
あの歳で、常に新しいものを愛せたり、発見したり、生み出したりするのがすごいし、感性の才能を感じる。
さらに文中にもあった、「未来はいつもおもしろい」という文章が、極端ですが、震災後の日本だったり、太田光の才能の無限さを表現してるような気がして、とても心に響いて大切にしたい言葉、常に頭においておきたいなぁとそんな風に感じました。
評価は3つです。ベタですが才能に限りをつけてほしくないと思い、3つにしました。
どんどん作品を作ってほしいです。3作目を出したら、また「文明の子は駄作だ!」と言ってほしいです。
曾根崎心中
正直、古典作品は、壁があり読みずらいものです。
近松門左衛門作品を、角田光代女史の切り口で、現代に、「角田作品」
として甦らせたもので、男と女の情念、哀切が見事に描かれています。
ラストの斬新さも、心に残ります。
この様な古典ものをわかりやす読ませてくれる取り組みは、
原著に対する興味にも繋がります。
他の江戸文学の恋愛物、傑作を現代に、読みやすく、甦らせてほしい
ものです。
ぜんぶの後に残るもの
私は、この方の文章と感性の独特な先鋭さがとても好き。
日経新聞の夕刊に掲載されていたエッセイもリアルタイムで読んだとき、
なかなか、他の人がはっきり言えない感覚、でも市井の感覚、でも独自なもの
を打ち出しておられて、関心していました。
この本は、週刊新潮の連載がかなりの部分を占めるけど、
一部、震災直後の時期の日経夕刊のエッセイも交えています。
今の時代をより深く考えるために、
どのような力をもってしても「奪われないもの」とは何かを
震災後の今考えるために
この本を読んでみてください。
追伸:深刻な話ばかりではなく、つい笑っちゃう話ももちろん多いです。
(作者のファンにはいわずもがなでしょうが)。
乳と卵(らん) (文春文庫)
読点で文章をつなぐだけで、一文がやたら長くて読みにくい文体。
それも関西弁がベースになっているから、
言葉を理解しきれない読者もいるかもしれません。
でも、我慢して読んでいるうちに、この文体が心地よく感じられるようになり、
目が離せなくなったりして。
ストーリーは、豊胸手術をしようとする母と
コミュニケーション・ブレイクダウンに陥った小学生の娘が、
東京の妹(娘にとっては叔母)を訪ねた先で言葉を取り戻すというもの。
このあたりの話は、30代男性の僕には最も縁遠いことなので、
ほとんど共感できませんでした。
ただ、ストーリーはこの際重要ではなく、
ディテールに現代を生きる人の見えない叫びが翻訳されています。
その意味では、文学として成功していると言えるのでしょう。
芥川賞選考会でも賛否両論で、絶賛する人もいれば、
石原慎太郎氏なんかはメッタ斬りにしたとか。
ひとつ言えるのは、文学には正解などないということでしょう。