花ならば花咲かん
本書を読んでいるさなか、東日本大震災がありました。政府の後手後手の対応、実態に目を向けない当事者意識のなさ、無責任な情報発信に怒りがおさまりません。
今回、まるで為政者によって苦しめられているかのような福島県民。しかし、同じ県内(会津藩ですが)の江戸時代中期、こんなにすばらしい指導者が、綱紀が乱れ、庶民は生活に苦しみ、藩は借金にあえぐ会津藩政を立て直したのです。
玄宰の素晴らしさは、データをおさえ、歴史に学び、自分の頭で考え、全責任を負う覚悟で改革を推進したことです。彼の少年時代からを描いた本書は、そのような人格・識見にすぐれた人物に、玄宰がいかに育ったかの経緯がわかる成長小説でもあります。
頑張れ、福島県!こんなに素晴らしい指導者が生まれる文化を持った土地なのですから。
明治新選組 (角川文庫)
著者の処女作品集で、6編の短編が納められています。
時代は、安土桃山から明治まで色々。
とくに面白かったのが、坂本竜馬暗殺について書いた
「近江屋に来た男」
主人公の最後の台詞が利いています。
又、柳生新陰流の話
「一つ岩柳陰の太刀」
の剣戟の描写が秀逸です。
奥方が活躍する話もありワクワクしながら読みました。
短編ですので、どのお話から拾って呼んでも楽しめます。
いつの日か還る―新選組伍長島田魁伝 (文春文庫)
明治33年、西本願寺の境内で
夜回りをしていた老人が倒れて亡くなった。
彼はその昔、新選組の隊員だった。
という史実から、島田魁という人物に興味をもって
この本を読みました。
身の丈六尺に十五貫の巨漢で、剣と槍の名手、
それなのに酒をたしなまず大の甘党で、寡黙で真面目な主人公
島田魁の視線で、新選組の出来事や
明治維新後の生活がつづられています。
会話のかたちで、当時の政治の状況説明がはいり、
歴史に詳しく無い私でもとても解りやすく読みすすみました。
又、隊員達が登場すると、
名前のあとに、ちょっと容姿の説明が入るのでどんな姿の人だったのか
想像しやすく、それもとても楽しめました。
第二次大戦中の話を身近な人物から聞くと、
「政治の状況なぞ知らずに、
その立場立場でせいいっぱいやってきた」ということを感じるのですが、
この物語の主人公にも、それを強く感じました。
南部鉄瓶を肌身離さず持ち歩き
「南無妙法蓮華経」と鋳込まれた部分を指でなぞり
念仏を唱えつづけ
「手を掛けた者や非業に倒れた者」の位牌に見立てていた。
という人物像は、今まで私の持っていた
新選組のイメージとは離れたものがありました。
会津藩士が巧みに輪乗りしながら馬上で口上を述べ駆け去る場面。
薩摩の洋式銃隊の入京の様子。
「新選組、見参!」と永倉が古風に名のって、
洋式装備の長州兵に切り込む場面。
など、まるでドラマを見ているように画面が頭に浮かんできました。
島田魁の妻となる、おさと の可愛らしい様子も
この物語に花を添えています。
主人公の朴訥な性格に惹かれてとても面白く読みました。
新選組隊士の一人の飾らない姿が描かれています。
これは、読んだかいがありました。面白い本です。
保科正之―徳川将軍家を支えた会津藩主 (中公新書)
「保科正之とはいつの時代のどのような人物か」ということを知るには手ごろな一冊。会津ものを多く書いている著者の本だけに、贔屓の引き倒しのような発言には事欠かないが、それにいちいち目くじらを立てるのは野暮というものであろう。割り切って読むことをお勧めする。
ただ、第二次世界大戦末期に「保科正之ブーム」とでも呼ぶべきものがあった点をまったく無視している点だけは看過できない。これは近代会津の歴史観そのものに関わるポイントであるのだが、そのあたりの議論に関しては、中村彰彦には正直ほとんど期待できない。そこで、ここでは問題を指摘するにとどめておく。
名君の碑―保科正之の生涯 (文春文庫)
三度目を読み終えて前回の読後感を上回る感動を得、高三の孫娘に是非読んで欲しくてプレゼントしました。私の母方の先祖である曾祖母は文久二年会津生まれで、戊辰戦争に敗れ西軍の兵がやってきて「荒川市郎兵衛、兵糧を出せ!」と言われたと90歳でなくなるまで私共曾孫に語り伝えてきました。
その曾祖母は町で有名な女傑でありまして、米穀屋を営んでいたとき借金を返済しない男性客に「代金を返さないならお前の顔を殴らせろ!」と言い顔を張り飛ばし、帳消しにしたそうです。
かくも激しく生活力が旺盛で魅力的であったのは、会津に生まれ会津藩士の子として育ったことも無縁ではなかったのではと思います。
会津藩主初代保科正之から最後の藩主容保までの歴代の藩主には、遇物はただの一人も存在しなかったと中村彰彦氏は書いていますが、思うに如何に保科正之の初代藩主としての業績が大きかったことかの証明であり、また現代まで続く会津人の資質の高さの根源は、藩校日新館での教育の成果ではと、福島の地から遠く離れた八ケ岳南麓から想い新たにしています。