八甲田山 特別愛蔵版 [DVD]
いまさら言うまでもなく、“八甲田山”の映像の厚みと本物の迫力は圧倒的です。 これほど重厚な日本映画はその後作られていないと言っても過言ではないでしょう。 若い人にも是非見てもらいたい名作です。 しかし、まったく個人的な感傷なのかもしれませんが、この作品はある意味、戦後、世界を席巻した日本映画界の終焉を象徴しているような気がしてなりません。
当時ブームとなっていた日本映画は、例えば一連の金田一耕助ものや、少し遅れて始まる戦争大作もののように、一昔前の悲劇的で薄暗い日本のイメージを強調したようなものが多く、子供だった私の目にはとても恐ろしく映っていたものです。 同じころ、アメリカでは“スター・ウォーズ”や“未知との遭遇”という、もはや地球すら飛び越え、はるか宇宙の彼方まで届かんとする、夢いっぱいのゴージャスな映像美を追求する作品が登場し、その流れは現在でも脈々と続いていますが、日本ではそういった動きは起きませんでした。 80年代に入り、経済的に世界のトップへ駆け上っていった日本人にとって、もはやこういう懐古趣味的で、暗い日本独自の映像美というものは時代の雰囲気と合わなくなってしまい、日本映画は完全に崩壊していきました。 あの“天は我々を見放した”という有名な台詞はあまりにも象徴的で空恐ろしい感じさえします。 ただ、今大人になって、お茶の間のTVドラマをそのままスクリーンに映したような薄味の日本映画を見るとき、あの当時の映画界の職人さんたちのレベルの高さと情熱に感嘆の念を禁じえません。“八甲田山”は私にとってそういう、恐ろしさと懐かしさと悲しさと畏敬の念をもって何年かに一度見てしまう“最後の日本映画”なのです。
NHK少年ドラマシリーズ つぶやき岩の秘密 [DVD]
今からン0年前、僕が東京に出てきて初めて行ったことは、京浜急行に乗って三崎口まで行き、
三戸の漁村と海岸を歩き回ることでした。
紫郎少年が歩いていた道がここにある、紫郎少年が漕ぎ出した海がここにある。紫郎少年が住んでいた家がここにある!
それほど思い入れの強いドラマでした。
一人で漕ぎ出す海、謎の老人、日本軍の地下要塞と、少年が活躍するにはうってつけの舞台と登場人物が用意されている。
けれど、決して単なる娯楽冒険物語ではない。
身近なところに謎が潜み、その謎を解いていくうちいろいろな人と出会い、歴史を知り、
謎が解けるとともに少年の幻想は崩れるが、大人への成長の一歩を踏み出す。そういう物語です。
多くの少年はそういう体験を願いながらも実現することは難しいでしょう。
それを、テレビの中に結実させてくれたのがこのドラマです。
若いスタッフがマイナーな少年ドラマだからこそチャレンジした、斬新な演出もほほえましい。
クラスメートの志津子ちゃんがかわいくて、僕もこんなガールフレンドが欲しいなどと子供心に思ったものでした。
今では小林先生(菊容子)の色っぽさに眼が行ってしまう。僕もオヤジになったものだ。
昭和40年代の生活を見るのが楽しい、というか懐かしい。
孤高の人 16 (ヤングジャンプコミックス)
作者が始めに「ある頃から、僕は擬音を信用しなくなった。漫画がコマの芸術だと言うならば、絵とテンポだけで、読み手の頭の中から、真実の音を導きだせるはずだ。」と言っている。
全くその通りだと思う。
坂本眞一の画力ならそれが実現できる。
というか、この巻は正に実現している。
個人的にはストーリーも素晴らしい。
これからも芸術的なこの漫画を応援したい。
栄光の岩壁 (上巻) (新潮文庫)
なんど読んでも引き込まれるおもしろさがある。
登場人物に、徹底的な悪人がいるが、そこまで悪い人は現実にはいないだろう。
設定にあまりにも無理があり、勧善懲悪な感じが強く出てしまっている点がおしい。
しかし、山の小説としては、十分に楽しめる。
いい本です。
つぶやき岩の秘密 (新潮文庫)
NHKの少年ドラマ・シリーズ(1973年放映)が傑作なので、こちらでご存知の方も多いと思います。
このドラマは新田次郎の原作。新田氏の数少ない少年向きの小説です。彼は三戸浜の新潮社の保養所で執筆することが多く(「八甲田山 死の彷徨」等)、美しい自然に恵まれた海岸や台地を散歩するのが大好きだったとか。そのときの経験を元にしているようです。
小説そのものが、(新田氏の他の小説同様)自然の描写にすぐれ、その中で生きる人間の姿を見事に描いています。小説の中で紫郎が書いた作文が出てきますが、新田次郎の写実的な文章の特徴が良く出ているます。また、新田氏は娘の藤原咲子さんが幼い頃作文指導をしていたそうですが、それを彷彿とさせるような感じもします。
そして、ドラマが好きな方にも是非一度読んでいただきたい。あの美しい映像の元になった部分がよくわかります。
海への憧れ、亡くなった両親への憧憬、困難い立ち向かう少年の成長…ドラマでは変更されている部分もありますが、そこに繋がるオリジナルな部分が良くわかります。
この原作を読むと、ドラマで良くわからなかった部分(白髭さんの辞世の句等)の意味がよくわかります。他にも細かい描写の理由がよくわかる部分もあり、ドラマの背景を知る上でも貴重でしょう。
ロケ地のもなった三戸浜(神奈川県三浦市)を訪れ、実際に新田氏が歩いた道を辿ると、ドラマが思っている以上に原作の世界に基づいていることがわかるし、あえて設定やストーリーを変更しなければならなかった、その理由もわかることと思います。