マイナス50℃の世界 (角川ソフィア文庫)
本書は、元々はロシア語の専門家で通訳であった、作家・故米原万里の最初の作品であったらしい。最近、新聞の書評欄でこの文庫の存在を知り読んでみた。とてもおもしろかった。
個人的なことだが、高校時代の現国の先生が樺太出身で、脱線話でよく自慢そうに酷寒体験を語ってくれた。その時の最低気温は零下30℃レベルの世界の話だった。本書は零下50℃以下の世界の話で、こりゃすごいと思った。
本書は、解説を入れても126ページの小品だが、最大の特徴は、読者が読んで得た知識を誰かに必ず語りたくなる不思議な魔力を持っていることだろう。例えばこんなふうに「ねぇー知ってる?シベリアの世界で一番寒いところは冬マイナス50℃以下になるんだよ。そこではね、車のタイヤはスタッドレスでもスパイクタイヤでもなくチェーンもまかないノーマルタイヤなんだって。しかもすりへって溝がない通称「ボウズ」のタイヤの方がいいんだって。ねぇ、どうしてだと思う」
おもしろいです。短いから、速読の方なら立ち読みで読破してしまうかもしれません。でも、小話のネタ本にするなら、私のように購入をお勧めします。
パーネ・アモーレ―イタリア語通訳奮闘記 (文春文庫)
この本を読めばイタリア人のいい加減さや女好きなところなどなど、イタリアがよくわかる。イタリア語通訳とは、それらを笑い飛ばし、商売女と間違われて値段をつけられた時でも、(ちょっとうれしい)と思えるぐらいでないとやっていけないのだ。イタリアの描写には納得、同時通訳の苦労には敬服、とにかく楽しい本。
必笑小咄のテクニック (集英社新書)
米原さんの文才はだれもが認めるところですが、このように原理的にお笑いとも取り組まれていたこの遺作が出るまで不覚にも知りませんでした。
いろんな方が好評レビューをされているので、搦め手から。
米原さんらしいところは、東欧やロシアの小噺を例題にするだけでなく、小泉元総理の言説のあげつらって腑に落ちる例題にされているようなところでしょう。批判精神が最期まで横溢してます。
無類のお笑い好き、落語マニアの自分からすると、「木を見て森を見ず」のような分類にハタと膝を打ったものの、「誇張と矮小化」のようなカテゴリーは、あまり祖型の分類にはなりきれていないという印象でした。
とはいえ、厳密な祖型論とかパターン論を求めすぎるのは、本書の読者としてはヤボだということは十分わかっていますので、米原さんによる仕分けの手際と挿話のおもしろさを、語り口を味わっていただけると思います。
不実な美女か貞淑な醜女(ブス)か (新潮文庫)
彼女の他のエッセイの方を先に読んでいたため、この書のことも書名から「下ネタたっぷり、世界の恋愛事情」的な内容とばかり思っていたのだが、堅くまじめ、でも読みやすくて笑える「通訳論」の本でした。
私もすごく昔、「(典型的な)英語が好きな(かぶれた)中学生」として、通訳もしくは翻訳業に就きたいと思っていたことがある。でも、この本を読むと、単なる「語学好き」じゃ通訳業は務まらないことが分かる。言葉と言葉を一対一で訳しているのではなく、その発言内容の「本質」を瞬時につかみ取り、文化背景等を咀嚼した上で、正しく訳出する…超人的なコミュニケーションスキルが求められる仕事です。。
目指さなくてよかった、あるいは、本気で目指してみれば良かった、と思いながら読みました。面白い。
旅行者の朝食 (文春文庫)
食エッセイに目がない自分としては、タイトルだけでとりあえず購入した本ですが、いやはや何とも、世界各国の食文化(特に東欧圏)に触れ、その背景に触れ、尚かつすいすいと読ませながらも、食欲をそそる内容は、最近買った本の中では久々の大ヒットです。
特にトルコ蜜飴のくだりは、思わずそこら辺にいる人を捕まえて、『ほら、これ食べたくない?』と読ませて回るほど。
いや、食好きの人は、何が何でもお読み下さい。