ザヴィヌル―ウェザー・リポートを創った男
最近はその知名度がいまひとつの印象があるが、やっていることは凄いジョー・ザビヌル翁(失礼!)これは、そんな彼の自叙伝ではないが、彼への取材を回想録的にしかも、第三者的に記述した非常に優れたものである。JAZZ関係の書物を多く目にしてきているが、かつてこれほどに密度の濃いものがあったであろうか?JAZZファン必見の一冊である。
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ザヴィヌルはウェザーリポート後は、ジャズというより
ワールドミュージックに近いものになった。そのためか、
いまいちウェザーリポートの延長・オマケとしてみられがち。
でも、そんなこたあどうでもいい。マイルスと同様、最後の
最後まで進化をしていた音楽家であった。そんな爺に感動。
全曲秀逸の一品だが、「ZANZA'U」とショーターとの共演
「IN A SILENT WAY」がたまらない。
JOE ZAWINUL on the creative process―ウェザー・リポートの真実
この著者が雑誌記者時代にザヴィヌルから直接楽譜を借りて音を出し、ショックで熱が出たというエピソード、その掲載誌を読んだクチである。実は同じような体験でジョー・パスの教則本を片手にギターを弾き、自分も背筋が寒くなった覚えがある。とてもヘンな指使いなのに出て来るのはゴージャスなコード。世の中には凄いことを思いつく人がいるのだな、と。
それを永年のテーマで持ち続け、ほとんど執念でその体験の続きを実現させ、しかもこれだけの本にまとめあげること、これは編集者としては恐らく究極の夢ではないかと思う。ここに公開されたザヴィヌルの手書き譜は、まさに世界中のファンの宝、そして歴史のダーク・ゾーンを世の中に明らかにする壮挙といっていい。私も本文に目もくれずさっそく汚い字を頼りに(笑)ヴォイシングを再現すると叩く和音1発1発が当たり前だがウェザー・リポートのサウンドなのである。これにはたまげた。それをまだウェザーが存在する20年近く前に体験した著者の心境はいかばかりであったろうか。例えが悪いが核ミサイルの発射ボタンに触ったような感触だったのではないか。
ザヴィヌルの存在の大きさについては、今更論ずる必要も余地もない。ウェザーよりはマイルスとのコラボレーションの中から生じる謎の方が私には重大な関心がある。「ファラオズ・ダンス」はイメージはザヴィヌルの伝記で知ってはいたが、こうして楽譜で表現されると強力なインパクトがある。ちょっとだけ、自分のバンドでカバーしようかな、などと軽い気持ちでいたが本書で言われている通り、シンプルに聴こえるものが実は複雑なハーモニーでできていた。これはその通りに演奏はできてもとても「スタンダード」ナンバーのようには扱えない。まさしくザヴィヌルの音楽である。
この本についての断を下すつもりは全くない。ただひたすら、ザヴィヌルの思考のかなりの部分を、日本語で届けてくれた功績に対して謹んで星5を献上する。
ヘヴィー・ウェザー
実は、昔からさんざん聴きすぎたせいで、しばらく遠ざかっていたアルバムです。聴く前からフルアルバム全曲が走馬灯のように蘇ってきてしまいます。特にかの有名な「バードランド」の印象は強く、つい跳ばしてしまおうかと思ってしまいます。でも跳ばしちゃだめですよね。
ジャコ、ザビヌル、ショーターの3人のバランスが一番良い時かもしれません。もしかすると、このアルバムだけかもしれません。それぞれのプレイ、コンポジションの妙が楽しめます。
どうでもいいことですが、2曲目の"A Remark you made"を「お前のしるし」と訳すのは、意訳というより誤訳でしょう。「お前の言ったこと」ぐらいの意味です。
実はこのアルバムの中では、6曲目のショーター作「パラディアム」が好きです。テーマは何気にビッグベンの鐘の音「ウェストミンスターの鐘」です。学校のチャイム「キーンコーンカーンコ〜ン」です。そこで展開されるメロディックなショーターのソロが聴きものです。珍しく熱いソロです。ショーターが切れることもあるんですね。ザビヌルとの掛け合いも秀逸です。残念ながらCDではバージョンによってこの曲の最後の部分がカットされているものがあります。気をつけましょう。
ジャコの参加でウェザー・リポートでのショーターの存在感が薄れていきますが、ジャコとショーターのプレイって何となく噛み合いませんね。
PS.カバー・アートのコラージュはザビヌルの奥さんの作品です。次作「ミスター・ゴーン」もね。