戸川純 TWIN VERY BEST COLLECTION
現在、戸川純の作品はゲルニカ時代のものが未発表音源を含めて復刻され、ヤプーズもリイシュー盤が出たため、比較的たやすく手に入ります。しかしソロ時代の音源は肝心の「玉姫様」含めて入手難です。
本作は1の2や1の6みたいな“代表曲だけどもうアルバムが手に入らない曲”がちゃんと聴ける、良い音盤です。「昭和享年」とかがほとんど入ってるわけで。
他に、1の13、2の14以降のように入手難の曲が入っているため、最近戸川の作品を集め始めた人にはうれしいでしょう。私はうれしかった。
しかし難もあり。ゲルニカ、ソロ、ヤプーズの作品が入り乱れて並んでいるため少し聴きづらい。ゲルニカとそれ以外ではモードがかなり異なるので、なるべく固めてほしかった。それが★一つマイナスの理由です。もしも根気があるなら、中古で「ツインズ~スーパー・ベスト・オブ戸川純」という2枚組を探すのもいいと思います。
ダイヤルYを廻せ!
ヤプーズ名義の三枚目。メンバーチェンジが激しいバンドだが、この頃がベストメンバーだったかもしれない。なかなか重厚なビート感のある、それでいてポップなサウンドが戸川の世界観を盛り立てている。いままでは戸川の個性がなにかと浮きがちな印象があったが、このアルバムではバックにいい感じに溶け込んで一体化している。確か、シングルが切られていなかったと思うのだが(間違ってたらスミマセン)その分統一感あり、アルバムのテーマ性もわかりやすい。「ギルガメッシュ」から「赤い戦車」の流れは圧巻。
ヤプーズの不審な行動
ダダダイズム発売後のヤプーズライブの収録ですが、この時期のライブは映像化されてないので音源が凄い貴重なんです!
君の代とヤプーズのテーマのライブ音源が聴けるのはこのアルバムだけ!(多分)
あとは曲的に、前半はしっとり系でヴィールスからの後半はテンションが高いという、かなりのギャップが楽しめます。
同日収録とは思えない程の変わりようなので、一貫性がないと言えばそうなんですが、しっとりとした蛹化の女と、超ハイテンションなメンズ受難〜レーダーマンを一枚のアルバムで聴けるのは、凄いことかなぁと思います。
HYS
椎名林檎の「無罪モラトリアム」に4年先駆けてあられもない思春期の現実を切り取ったアルバム。
「無罪モラトリアム」では、物語は少女が博多と思しき地方都市から東京へ出てきたところから始まって、ある晴れた日の(別れの後の)一人暮らしの脱力感で終わる。CDは絶頂から始まり、あとは全部エピローグ。比較的短期間の日常。
「HYS」もまた、様々なシチュエーションに仮託して思春期の感情のゆらぎを描き(タイトル曲の1のみ思春期とは関係のない日常)、最後は別れの後の一人暮らしの脱力感で終わる。両者に共通するのは泣きはらした後の脱力感と若干の開き直り。「HYS」にのみ満ちているのは自分に欠落しているものへの渇望感。
「無罪」ではリアルタイムであるが故の疾走感が若い人たちの共感を呼んだが、「HYS」では振り返る視線で思春期の感情のゆらぎを描写したが故に、歌詞はより残酷で、歌は演劇性を含み、時間は圧縮され、「無罪」に共感した若い人たちの共感を呼ばない。
4. では「バーバラ・セクサロイド」と同じ世界を使いながら、唄っている内容といえば明るくない未来に向かってすら人は生きざるを得ないという現実、否、生き延びるのだという決意。「オーロラ・B」に似た内容の8. でも、主人公を苛むのは寂しさではなく肥大しパンクしそうな自我。「ヤプーズ計画」のエロ・グロ・イノセンスのようなキャッチーなコピーは似合わないし、戸川純のエキセントリシティからパンキッシュな曲を期待すると肩すかしを喰らう。実に真っ当な変幻自在の戸川純風味ロックアルバム。