破裂
2段組で450ページもある。買おうかどうしようか、書店で手に取った時、ためらった。でも、いったん、読み始めたら、止められなくなった。面白い。とにかく、面白い。ぐいぐい、ストーリーに引き込まれ、ラストまでたどり着いた時、我々は、来たるべき高齢化社会に対して、切実な問題をつきつけられる。読後、心の中に、ザラリとした感触を残す未来図は、絵空事ではないのだ。
心のクスリ
生老病死に関して、識者へのインタビューをまとめた本。生老病死に関して、一人一人が異なる考えを持っていることがよくわかる。そして、肝心なのは知識ではなく心であるということも。
この本の中で、識者によって、全く反対の意見が収録されていることもある。そういう意味では、生老病死に関して誰にでも効く心のくすりはないのであろう。だがいろんな意見を知ることで、心のサプリメントにはなると思う。
日本人の死に時―そんなに長生きしたいですか (幻冬舎新書)
著者の久坂部羊さんは現役の医師です。しかも作家との二束の草鞋。
何とも素晴らしいご本である。
・長寿をもてはやし抗加齢に踊る一方で、日本人は平均で男6.1年、女7.6年間の寝たきり生活を送る。多くの人にとって長生きは苦しい。人の寿命は不公平である。
・だが「寿命を大切に生きる」ことは単なる長寿とはちがうはずだ。
実に鋭い問題提起でございます。そして氏のその対策と言えば、
・まず肝心なのが十分な睡眠。毎日、午後10時台には床に入り7時間以上は寝ます。夜更かしや徹夜は絶対にしません。
・食事では、肉も好きですが、野菜や魚料理などヘルシーなものを食べるよう心がけています。腹八分目で、おかわりはしません。もう少し食べたい時が、やめ時です。
・好きなものを我慢して健康に努力するのは本末転倒。お酒も週に1〜2回飲みます。ビール、ワイン、焼酎・・・
・たばこは吸いません。
・運動も適度に。週1回程度は走っています。
・ただ、健康は人生を充実させる手段で目的ではありません。健康な方にはあまり汲々とせずにと言いたいですね。
・常に死に時を視野に入れて今を生きる。それに尽きるのではないでしょうか。 死に時をイメージしながら生きていると、ものの見方が随分違ってきます。川端康成の“末期の眼”を若いときから持つことができます。死を意識して見ると、毎年見ている桜が特別美しく見える。それと同じで、死を意識して生きると毎日がとても大切に感じられます。
仰るとおり。これだとミトコンドリアは万全ですな。糖質制限で美味しく楽しく、死ぬまで自立、寝たきり生活無しでピンピンコロリと逝きたいものでございます。
皆さんにお勧め出来る良作です。
大学病院のウラは墓場―医学部が患者を殺す (幻冬舎新書)
タイトルおよび帯に記載されている副題をみて従来からよくある告発文の類いと思って何となく買ってしまったが、読んでみると違った。内容は病院側、患者側どちらにも偏向せず、大学病院のかかえ諸問題を取り上げている。最近の医師不足の原因、内視鏡死亡事件の裏にある問題点など、全てが納得できるのである。そして最後の章の大学病院の改革案に賛成である。ちなみに私は最近まで大学病院の助教授であった。
廃用身 (幻冬舎文庫)
いきなり、作中作の中表紙が書かれるという構成にまず唖然とする。
そうやって物語に食いつかれたらもう終わり。一気に引き込まれて最後まで読まされてしまう。
「廃用身の切除」などといったものはフィクションでありながら、その向こうに描かれる「介護の現在」といったものは厳然たる現実のものであり、ノンフィクションとしての迫力を持つ。
その一方、主人公たる漆原医師の本性を、最後まで全貌を明かさずに少しずつ、読者に固定したイメージを持たせないように異なる角度から浮き彫りにしていく、というのはフィクションとしての迫力だ。
その二種類の迫力が相乗効果で読者に襲い掛かる、強力な小説である。
そしてもう一つ特筆すべきは、これが作者のデビュー作であり、小説とは無縁の医者という職業の傍らに書かれたものだという点だろう。
読んでいただければわかるが、この異色の表現方法は、小説という形でなければ絶対に実現できない。デビュー作でありながら、「小説である」という特性を完璧に利用している。ただものではない技量であり、驚嘆するしかない。
一読の価値は、十二分にある。