身の上話
地方都市で平凡に暮らす主人公ミチルが、ふとしたきっかけから人生を大きく逸脱していく物語です
他のレヴューでも書かれているように、予測のつかない展開から、読み始めたら最後まで一気に読んでしまいました。
様々な登場人物がよく書き込まれていて、それぞれの打算や弱さがストーリーを左右するKEYとなっています。
その中で自分が一番気になるのは、ミチルの後輩竹井輝夫の存在です。
他の登場人物が大なり小なり人間味を見せる中、彼だけが本当に何を考えているのかわからない存在となっています。
主人公ミチルに対して心情を吐露する場面はあるものの、わかりやすさからは遥かに遠い存在です。(そして終盤でも・・・)
ある意味、人が生きている中で遭遇する絶対悪のような存在とも思えました。
個人的には米映画コーエン兄弟の作品のような風合いも感じます。
上手く映像化したら面白い作品になるのではないでしょうか。
小説の読み書き (岩波新書)
著者は近代日本文学の大家たちの作品を入念に読みながら小説家の意図する書き方や癖、特徴などについて解説している。
有名な作品をとりあげており、多くの人はかつて読んだことがある作品が多い。また、著者の書き振りがとてもユニークで飽きがくることがなく、理屈抜きに面白い。
読書家は複眼的な小説の読み方が身に付くことが期待できるし、読書の習慣がない人でも気に入った作品が見付かることが期待できる。
また、教科書に出てくる有名な作品が多いことから、学生に読んで欲しい一冊である。
続編を期待したい。
アンダーリポート (集英社文庫)
今年7年ぶりの新作「5」で500ページを超える長編傑作をモノにした佐藤正午、1年も経たないうちに早くも新作が刊行、躊躇なく購入、一読した。主人公は中年に差し掛かった検察事務官、堅実だが平凡な公務員生活を過ごす彼が唯一遭遇した若き日の劇的な出来事が、ある人物との再会を契機に、15年の歳月を遡り検証されていく。主人公の終始一人称で物語は展開し、“真実”にたどり着こうとする出来事が殺人であるため、探偵小説を読んでいるような感覚になるが、ミステリーと呼ぶにはいささか脆弱。これ、ある有名なミステリー映画、フィクションの世界では常套のトリックがそのまま生かされているのだけれど、“荒唐無稽で、絵空事で、説明がつかない”と称されている割には拍子抜けしてしまうほどヒネリがない。かと言って、その運命を手繰り寄せた者たちのドラマ性が過剰に押し出されることもない。検察事務官との職業柄なのか、主人公は努めて冷静に事実をたどり、決して“真実”の裏に隠された当事者たちの情緒的な想いに迫ることはないのだ。そつなくまとまっているものの、ここら辺が評価の分かれる処だと思う。他のレビュアーの方同様、意味ありげに設定される冒頭のシークエンスが、真相に行き渡った主人公が鍵を握る人物と対峙しに向かうラストに連環し、何気なく読み始めたフレーズに新たな意味を持たせるのは、相変わらず巧いと唸ったが。
きみは誤解している
たまたま舞台が「競輪」になっていますが、ギャンブルを忌み嫌う人にこそ読んでいただきたい一冊。実に滋味深い短編小説集です。
ギャンブル好きの人(私も含めて)にとっては、自身のスタイルを見直す格好のテキストにもなるかもしれませんね。
特筆すべきは「付録と解説」。中身については触れませんが、読後、強く印象に残ること間違いなしです。さすが自称“あとがきの達人”です。
アンダーリポート
推理小説として読んでしまうとつまらない。犯罪がありきたり。犯人捜し、殺人動機、トリ
ックも平凡だ。人間心理を追求した小説としてもありきたりの感じがするが。匂いの記憶が
犯人探しのポイントは面白いか。主人公が真相を追究することで実は自分自身も窮地に追い
込まれることになるのだが。新たな殺人につながる危険性が・・・人との関わり、距離感、
記憶の誤差、物語の展開は作者独特の世界だが、ジャンプと比べると・・・?