もっと知りたい興福寺の仏たち (アート・ビギナーズ・コレクション)
近鉄奈良駅をおりてすぐ近くにある興福寺の境内を眺めた時、奈良時代からずっと激動の歴史に翻弄されながらも、いにしえの奈良の都の姿を現代に伝えているこの古寺の素晴らしさに圧倒される思いです。五重塔は奈良・興福寺のランドマークとして親しまれています。
本書には興福寺の多くの仏像が紹介されていますが、日本の仏教美術史の中でこれらの仏像の美しさと秘めた価値を考えますと、よくぞ現代まで無事に伝わったことだと思っています。興福寺の仏様を知ることで日本美術彫刻史をよく理解できるような内容になっていました。その多くが国宝、重要文化財に指定されているのは当然でしょう。
本書で興福寺の魅力を語っている金子啓明氏は現在興福寺国宝館館長ですから、執筆者として最適です。
興福寺の宝物館で一番人気のある仏様は阿修羅像ですし、この三面六臂の仏様の美しさに魅了されています。美しいお姿と何とも言えない表情に惹かれるわけですが、親しみを感じさせる点においても我が国の国宝の中でも最高ランクに位置する仏様だと思います。14ページからの詳細な解説は参考になりました。
異形の乾漆八部衆立像も生き生きとした表情を持っており、これらが国宝なのも当然でしょう。
北円堂の仏たちの項目で紹介されている木造無著菩薩・世親菩薩立像のリアリズムには驚かされます。実際の像は結構大きく、運慶の傑作として見る人に深い信仰心を与えるでしょう。定慶作と言われている金剛力士像の筋肉のリアルな表現もまさしく国宝に値します。八角円堂の北円堂の建物そのものが国宝ですし、その他に多くの国宝を安置している価値あるお堂ですからここも是非訪れてください。
「世界遺産」の真実---過剰な期待、大いなる誤解 (祥伝社新書185) (祥伝社新書 185)
これまで世界遺産に関する新書を2冊出した著者による、世界遺産の本質を探った本。私も経験があるが、外国に行くとがっかりな世界遺産は結構ある。しょぼそうな世界遺産はなぜ世界遺産に登録されているのか??という疑問に本書は回答を示そうとしている。
登録の基準は「普遍的な価値」の有無にあるが、数値的なものではないだけに、登録はあいまいなものになっている。また、文化遺産の場合、普遍的な価値が今後残りうると見れば、シドニーのオペラハウスやブルーノ・タウトのアパートなど、出来て100年経っていないものでも、ためらわず登録する。本書では登録までの過程を、最近登録活動が行われた平泉や石見銀山を基にして詳細に説明する。事前に数年かけ、かなりの調査が行われていることを感じさせるが、それだけ長い道のりだということも言える。また、1ヶ国当たり年2件しか登録を認められない現在、国内だけで30以上登録活動をしている遺産がある。登録の見込みは薄いし、登録して観光客が急増すると、遺産が荒れるなどマイナスの影響も少なくない。にもかかわらず、専門のスタッフをつけるなど、少なくない税金も使われている問題点も著者は指摘している。
世界遺産=世界的観光地と表面的な理解がブームの要因でもあり、世界遺産を楽しむためにはより深い文化、地理や歴史などの背景を知ることが重要だと著者は語る。教科書的な感じがあったり、世界遺産の範疇で救い出すのは困難ではないかと思う、地名、言語の問題が出るのはどうかと思ったが、著者の考えはおおむね納得できた。