もうすぐ夏至だ
著者永田和宏氏は細胞生物学者であると同時に優れた歌人であり、
やはり日本を代表する歌人であった故河野裕子氏の
夫君である。
河野裕子氏の歌に惹かれ、御家族に対する興味もあって本書を手に取った。
河野氏との生活、研究と作歌を同時並行でこなしながらの
忙しい日々についての随筆も興味深いが、
細胞生物学や恩師、あるいは大学での教育や作今の世界情勢についての
記述もさすがに言葉を練り上げる世界に長く生きた方だけあって、
短い文章のなかの的確な表現にはっとさせられることが多かった。
小学校の音楽から「我は海の子」が消えたのは
「煙たなびく苫屋こそ」の「苫屋」の意味が今の子供にわからないからだ、
と聞いて唖然とした、というくだり、若い学生たちが「自分の領域だけに
閉じこもり、その領域の情報だけで満足するようになるとしたら、
おそろしいことである」と書かれた点にはまったく同感する。
平易な表現ながら、深いものを感じさせる優れた随筆集。
多くの方にお薦めしたい。