樅ノ木は残った (中) (新潮文庫)
なぜ山本周五郎の作品は新しさを失わないんだろう?物語は江戸時代初期の「伊達騒動」を題材にしているのにもかかわらず、その登場人物には深く感動を与えられるし、共感も得られる。
それは山本周五郎と言う人が人間の深い真実と言うものを感覚的に捕らえていたからなのではないだろうか?
「一人で生きる」ということを自分に課せられた使命のために厳しく自身を戒める主人公の原田甲斐は現代においても尊敬できる人物である。その生き方に深い感動を感じずにはいられない。
そして、唯一心を通わせた宇乃、そして自然(くびじろ、鯉、樅の木)にはその存在が極めて大きい。ことにラストは圧巻である。故郷から移植した樅の木はたった一本でその地に根を張っている。甲斐は自らをそこに投影し、宇乃にそれを託したのではないだろうか?原田甲斐の悲しさと強さが強く出ていて素晴らしい締めくくりとなっています。
この作品は登場人物が多かったり、江戸時代の役職名などが重要になってきたりして、なかなか読みづらいところもあるだろうけど、傑作であることは間違いようがありません。
心霊特捜 (双葉文庫)
岩切大悟は神奈川県警刑事総務課に所属しているが,県警のR特捜班との連絡係として勤務している。"R”は実は「霊」の頭文字でR特捜班は別名,心霊関係が絡む事件の特捜班『心霊特捜班』と呼ばれている・・・
6編からなる短編集。霊に絡んだ事件をR特捜班に所属する霊能力(!?)を持った3人と,持たない班長,そしてどちらかというと霊に弱い主人公の大悟が関係していく短編である。それぞれは,登場人物が同じと言うだけで関連性はなく,非常に読みやすい物語である。しかし,それだけに後に何が残るというわけではない・・・気軽に読むには最適な本である。
ストレイヤーズ・クロニクル ACT-1
『MISSING』や『ALONE TOGETHER』の、小さく、深く、冷静な、
『水』を取り入れた本の表紙がピッタリ合う、そんな世界観や文体が好きなので、
壮大で展開が早く、よりエンターテインメント性を効かせた『正義のミカタ』以降の作品には、
面白いと感じながらも、歯痒さを感じてしまっていた僕。
アマゾンでこの作品の予約が始まったとき、その表紙となる画像を見て、また本多さんが作風の舵を大きく切ったんだ・・・
『WILL』や『at home』でちょっと初期の作品の方に戻ってきたかな? と思ったのに、
やっぱりそっちに行っちゃうんだ・・・とため息をこぼしました。
じゃあこっちだって、思い切りハードルを高くして読んでやるからな! 面白くなかったらレビューに、
『やっぱり初期の作品の方がイイ! 絶対そっちの方がイイ!!』という旨の事を書いてやるからな!
と勝手に本多さんと袂を分かつつもりで、この作品を読みました。
そしたら……面白かったです。
規模は作品史上最大だし、登場人物もいっぱい出てくるし、テンポもすごく速い。
人間の汚い汚い部分を、まるで蒸留水のような清らかさに変換し、表現していた初期作品とは、正反対の作品なのは確かです。
その辺はやっぱり僕には引っかかる。
でも、やっぱり面白い。多くを語らずに、本質を読み手に強く伝えるという、僕が大好きなそのテクニックも健在ですし。
こういう作品も、やっぱりイイんだと思います。
『ACT-2』の発売、待ち遠しいです。ああでも待てないな。『イエスタデイズ アナザーストーリー』、どっかで手に入らんかな?
TUGUMI(つぐみ) (中公文庫)
前に通っていた予備校の講習でこの小説の文章に初めて出会い、読んでみて実に面白いと思ったので買って
読んでみましたが、吉本ばななさんの非常に優れた表現力には本当に舌を巻きました。
ちなみに、この小説の登場するつぐみは可也口が悪く我が侭で、「何云ってんだ、こいつ?」と思ったことが
多々ありましたが、意外と素直な一面があったり、拍手を送りたくなる程勇気ある行動をしたりと、なかなか
いい味出しているキャラです。
一番の見所は、センターで出題されたことのある、つぐみと恭一のやりとり。この場面は何度読んでも飽きない程
印象に残る場面だと思います。
とにかく、この本は初心者から上級者まで楽しむ事の出来る素晴らしい小説なので、是非買うことをお勧めします。
バイバイ、ブラックバード
バスに乗り、どこかへ連れて行かれることになった星野と監視役の繭美が、星野が付き合っている5人の女に別れを告げる為会いにいく。そこで5つの短編を拝読することに。どの作品も結びの一文が心地よい。作品自体から隠喩や暗喩を読み取る必要はなさそうである。ただ、大事な事はキャラクター同士の会話の中に含まれている。サラっと読んで楽しい時間を過ごしていただきたい。