ひばりクラシックス
美空ひばりのファンがこれをどれだけ好むかは未知数ですが、日本の名曲ともいえるこれらのひばりの持ち歌を、クラシックやジャズ・テイストにアレンジして再提示した面白さは十分に伝わってきました。演奏者の力量が確かですし、凝ったアレンジを引っ提げての企画ですから、どれも一聴に値する作品だと言えるでしょう。
この企画アルバムの出典は、幸田聡子『川の流れのように 美空ひばり・オン・ヴァイオリン』から5曲、幸田聡子『みだれ髪~美空ひばり・オン・ヴァイオリン2 』から2曲、萩原貴子『愛燦燦~美空ひばり・オン・フルート 』から4曲、樋口あゆ子『HIBARI on Piano』 から4曲、それぞれ収録してあり、このコンピレーション・アルバムを聴いて気に入ったアーティストがいる場合は、それらの元CDも聴いてほしいと思います。
ヴァイオリンといっても、実に伸びやかなポップスの香りのするものでしたし、フルートは横笛の印象を強く感じさせる不思議なテイストの作品群です。
その中で一番好きだったのは、幸田聡子の「悲しき口笛」でした。すすり泣くようなヴァイオリンの音色の悲しさ、聴く者の胸を締め付けるようでした。終戦直後の混乱期の人々のやるせない気持ちを美空ひばりは少女の年齢で見事に歌い回しましたが、ここでは幸田聡子がその名歌唱を彷彿とするような巧みさを披露していました。絶品です。
ソプラノの塩田美奈子の「津軽のふるさと」は情感たっぷりで聴きほれる歌唱でした。胸に迫る表現を聞くに連れ、ひばりファンも満足する出来映えでしょう。歌詞が明瞭で、雰囲気も情感も伝わってきます。
ラストの美空ひばり with 高嶋ちさ子 12人のヴァイオリニストの「川の流れのように」は、凝った演奏でした。ひばりの歌唱だけを抽出して、バックの演奏に収めているわけで、とても自然な雰囲気が漂い、聴き慣れた名曲、名歌唱ですが、アレンジの巧みさもあってひばりさんの歌がまた違う色合いを帯びて伝わってくるようでした。