痛々しいラヴ (Feelコミックス)
世の中には戦争とか社会システムの崩壊とか、ものすごくマクロな問題があって、それらは概ねテレビなどのメディアによって広く知らされているんだけど、いかんせんテレビ画面の先の他人事という印象を拭えません。一方「痛々しいラヴ」で描かれる諸世界は、本当にものすごく些細なことの複合体で、隣のビルで働くOLの金曜夜のちょっとした思考とか、生理の日のちょっとした思い入れとか、そんなのばっかりで全く公共性がないんだけど、日常に生きる僕らにとっては、ほとんどこれが全てだと言ってしまえるほどのぶ厚い感情が刻まれています。
前者が公だとすれば後者は私で、往々にして成果の求められる公に対し、私では納得のいく答えが出ない局面の方が多く、だからこそその思考の過程と感情は、一見公的な事以上に、実は多くの人々に共有されているのです。このマンガは、その共有されている私的感情を、魔法のようにすくいとって見せてくれます。その芸は秀逸の一言です。魔法のタネのひとつは体温の低そうな画で、なななんのマンガを平積みしている(気の利いた)本屋は、それだけでこじゃれてしまうほどのデザイン性を有しています。
とにかく読めばきっと身悶えしながら「見つけた」と思える珠玉の一冊です。
キャンディーの色は赤。 (Feelコミックス)
初期の作品に見られた閉塞感とやるせなさは随分と影を潜め、風通しの良さが感じられる一冊でした。初期作品群も嫌いじゃぁないけど。
いっぱい涙して、女のコもオンナになるんですね。
Blue (Mag comics)
この漫画の映画化作品を観に行って、原作はどんなだろうと思って手にしました。魚喃キリコという作家の名前も作品もこれが初体験。ナナナン・キリコなんてそもそも読むことも出来ませんでした。
映画と原作のどちらが良いかという比較はあまり意味がないような気がしますが、どちらかというとこの原作のほうが「浮遊感」が強いかもしれません。というのも、まるでジャポニスムの影響を色濃く残すマネの絵(ほらあの「笛を吹く少年」)のように背景がほとんど描かれていないのです。省略された空間に読者は自由に色や温度や匂いを見ることができます。舞台は一地方都市なので東京のように饒舌な街の風景はもともとそこにはありません。96年の作品なのでインターネットも携帯電話も出てきません。だからといってポケベルも出てこない。時代を象徴するそうした小道具が削ぎ落とされて物語を邪魔していない上に、人が人を想うという いつの世にも大切な気持ちが静かに描かれているので、この作品は時代を越えて生き残るような気がします。
ストロベリーショートケイクス [DVD]
女性って、おもしろいですよね。
何かを持っているのに、持たない何かに憧れる。
自分の持っているものには無頓着なのに、自分が持たないものには異常なほどに執着する。
結婚や恋愛、自らの仕事、才能に焦る20〜30代。
等身大の女性がここにはいます。
何が言いたいか分からなくたって、物語にドラマティックな抑揚が無くたって、スケベ心を満たしてくれるようなシーンが無くたって、いいじゃあありませんか。
ただ私は現代を生きる女性の一人として、この作品に心から感情移入し、共感しました。女優が飾り立てるわけではなく、化粧っけの無い、ほんとの顔で、体当たりの演技をしていることにも好感をおぼえました。
淡々とした、色彩の薄い、うつくしい映画です。原作もよかったですが、映画化されてもなかなか。とても切ない気持ちになりました。
彼女のこんだて帖
料理にまつわる15のお話。
すごく短い話だけど、どれも心にじんわりと来る優しい話ばかり。
話の中に出てくる料理のレシピがわかり易く記載されている。
中には難しそうな料理もあるけど、その料理を作る主人公が
気負わずに作っているので、自分にも出来るような気になる。
一つの話の登場人物がまた別の話に絡み合っているのも、
読んでいて見つけるととっても面白い。
食事というのは毎日何気なくとっているものだけどそこには愛情や
悲しみや喜びや色々な気持ちがまじりこんでいるんだなぁってしみじみ思った。
人の為に食事が作れる幸せはもちろんだけど、自分の為にきちんと
料理をするって事もとっても大事で幸せな事なんだ。
そういう生きていく中で当たり前すぎて忘れてしまっている
とても大切な気持ちを思い出させてくれる本でした。