怪奇探偵小説傑作選〈3〉久生十蘭集―ハムレット (ちくま文庫)
「黒い手帳」のような異様な心理小説、「湖畔」のような特異な恋愛小説、「地底獣国」のような奇怪な冒険譚、そして久生小説の中でも一際高く輝く「ハムレット」。様々なジャンルの小説が収録されているので飽きることがありません。どこか貴族的な雰囲気が漂う怪しい久生ワールドをたっぷり堪能できる一冊です。
久生十蘭短篇選 (岩波文庫)
凄まじい美文、これでもかと謂うほどの知識、しかも、凝りに凝った仕掛け。傲慢にして、皮肉。顎十郎も、いやな野郎だったけど、作者本人が、もう、止めどもなく、気障で、嫌味で、傲岸な野郎だったのではと思わせるような、これ見よがしの技巧だ、知識だかを、振り撒いている。美術だ、工芸だ、着物だ、料理だ、文学だ、歴史だ、挙句は、造園の薀蓄まで、のそのそ曰う。
こういう、表面的な嫌味の裏で、人の悲しみや、妬み、恨み、拘りや、面子、さては、愛情や正義等々、あらゆる感情の機微を、繊細に捉えて、静かに物語を動かし、最後に、えっ!とか、ああそうなのか・・・とかの、おち?というか、始末をつけるところが、心憎い。
ここまでのかっこ良さが、流石に、嫌味だったか、表だった有名作家ではないが、お好きな人は、広く、深くおられるのだろうなあと、納得です。
魔都―久生十蘭コレクション (朝日文芸文庫)
初めて長編ミステリーを読みました。
最後の最後まで考えさせられて、何回も読んでしまいました。
難しそう・・・なんて思ってましたが
かなりハマってしまいました。
こんなに凄い作家さんを今まで知らなかったとは・・・
時代を感じる作品ですが、
ミステリ小説がお好きな人は読んでみる価値があると思います。
久生十蘭ジュラネスク---珠玉傑作集 (河出文庫)
初めて十蘭を読むのならば、収録数や解説の充実ぶりから考えても、昨年出た岩波文庫の『久生十蘭短篇選』に軍配を挙げざるを得ない。しかし、本書は現時点で文庫や単行本では読めないものばかりを収録しており、その編集側の配慮は立派である。岩波文庫に比べると小ぶりだが、収められている10篇のジャンルは、歴史物(「無惨やな」「影の人」)、冒険物(「藤九郎の島」)、幻想物(「生霊」)、洋風物(「南部の鼻曲り」「葡萄蔓の束」)、他文献からの引用を基にしている史実物(「遣米日記」「美国横断鉄路」)、そしてミステリー物(「死亡通知」)と多岐にわたり、十蘭の作家としての多様性をまずまず楽しむことができる。
個々の作品に関しては、特に後半の5つ(「藤九郎の島」「美国横断鉄路」「影の人」「その後」「死亡通知」)がどれも特徴的ですばらしい。「藤九郎の島」はちょっとしたロビンソン漂流記だし、「美国横断鉄路」は十蘭のなかでも異色作かもしれない。最後の「死亡通知」は本書の中で一番長い作品(約50頁)である。この佳品の後半部を読んでいて既視感を覚えたのだが、あとでよく調べてみたら「水草」という別の作品がほぼそのまま組み込まれていることが分かった。この「水草」は数ページの長さしかない超短篇で、『日本探偵小説全集<8>久生十蘭集』(創元推理文庫)などに収められている。「水草」が昭和22年発表、一方「死亡通知」は昭和27年発表である。この5年間のうちに、十蘭はこの小品を再度練り上げることにしたのだろう。このような作法は、例えば現在絶版の『怪奇探偵小説傑作選<3>久生十蘭集』(ちくま文庫)に収められている「ハムレット」とその原型になった「刺客」の関係にも見られ非常に興味深い。そういう比較ができるのもまた十蘭を読む楽しみの一つである。
十蘭万華鏡 (河出文庫)
どこからともなく漂ってくる異国情緒(あるいは、異世界情緒、と言うべきか)の風と、語り物(たとえば、落語や講談)を思わせる軽妙な語りがあいまって、独特な世界が立ち上がってくる。軽い紹介しかしないが、冒頭に配された「花束町一番地」、その語り出して間もない箇所を引用しよう。
うるさい親爺やおふくろばかりではない、お嬢さんたちはいろいろなものを岸壁へ残して行く。/そういう花々しい船が出帆した後で、波止場人足が妙なものを岸壁で拾った。あまり可笑しな恰好をしているので、それをある物識に見せたら、これは貞操帯という格別なもので、ザラには落ちていぬものじゃと仰言った。
こんな作品を残した作家がいたなんて! 顔がほころんでくるのは、気のせいだろうか?