ふるあめりかに袖はぬらさじ (中公文庫)
不思議なタイトルだなあ…と昔からずっと気になっていたのです。坂東玉三郎主演の舞台があると知り、まずは舞台を観ました。なるほどね、こういう意味だったのか、こんなお話だったのね、と得心しました。もっとシリアスなのかと思っていたら、思いのほか笑いの要素が多くて、悲喜劇といえばいいのでしょうか、「おもろうてやがて哀しき」お芝居でした。
そのあとで戯曲を読むと、さすがに内容がストン、ストン、と入ってきます。あ、この場面はこういうことが言いたかったのか、と観劇だけではスルーしていたようなことにも気づきます。活字の魅力というか効能ですね。主人公・お園さんの口調がもうすっかり玉三郎で定着して頭の中で再現されてしまうのは、つい最近観たので仕方ありませんが、もともと持ち役にしていた杉村春子もきっと素晴らしかったろうなあ、と想像します。
併録の「華岡青洲の妻」も、どんな話か初めて知りました。小説はもちろん、映画やドラマにもなっている有名な話なのに、今までタイトルだけ知っていて、中身は知らなかったのです。こちらは笑えるような話ではありませんし、むしろ悲劇が次々に起こる重い内容なのに、なぜか暗い印象をあまり受けないのです。それは出てくる女性たちが自ら進んでその立場に殉じていくようなところがあるからかもしれません。読みごたえのある2本の戯曲でした。
青い壺 (文春文庫)
最初の章は意外性があり、へっ、と思いました。
ついで、どうやって他の人の手に渡っていくのかが
とても楽しみで、わくわく・どきどきの連続です。
最後どうなるか、読んでからのお楽しみです。
恍惚の人 (新潮文庫)
登場人物が夫々に、さもありなんと描かれ、臨場感たっぷりに読みました。今日現在の「居宅介護支援」「地域密着型サービス」「成年後見人制度」など、描かれている状況は変化への対応と言う形で進行していると思います。先がけて「今日」という未来を見通した先見性には敬服です。この小説では高校生だった息子が定年を迎えようとしています。彼はどうしているのか。また、彼の子どもは。物語に当てはめて想像しています。今日の社会や、家族、自身を見つめる契機を得ました。
華岡青洲の妻 (新潮文庫)
3代目の医者の青洲。麻酔薬を完成させ、乳がんの手術を世界で始めて成功させた人物。
その薬を完成させるために母と嫁の犠牲があって。。。
嫁と姑の「是非自分を実験に・・・」という思いはすごい。
私も姑と同居しているが、夫への信頼は別としても、なかなかここまでできるものじゃない。
現代医学も日々発達しているが、一体そのためにどれだけの人の犠牲があるのかと思ってしまうと恐ろしくもあった。
紀ノ川 [DVD]
基本的には徹底した洋画派なのだけど、たま〜に邦画を見ちゃったりして
それが大当たりだったりすると、めっちゃ嬉しいものであります。
で、これはBingo!でありました。
ストーリーはずばり『女の一生』です。
単純極まりないのです。
でも冒頭にどぉん、と現れる東山千栄子
トリをぐいっと引き締める沢村貞子
大女優の力量というものを存分に味わえる名画でございます。
それから武満徹の音楽が素晴らしい。
たゆたう川の大らかさの中に
「生」の重さをちりばめるような
静かなパーカッションが時折響く。
確かに何かが進んで行く、そんな人の営みの繰り返しを
密かに支えているような生命体の音のようでした。
二時間がとても長く、充実したものに感じられたのであります。