Jazzology
ジャズ史に一時代を築いたMJQ全盛期の作品「ジャンゴ」「フォンテッサ」「コンコルド」の3枚をパッキングしたもの。これらの歴史的名作がわずか1,000円以下で手に入る。最近、往年の名盤をセットにしたものが安価に販売されているが、これもその中の1枚。ただ収録作すべてが名作というところにメーカーの良心が感じられる。絶対のお薦めです。
Eight Classic Albums
さまざまなレーベルに録音されたさまざまなフォーマットの8枚のLPをCD4枚に収めた徳用盤。どの演奏も第一級のものだが、このバラエティに富んだコンピレーションに携わった担当者は残念ながらMJQのことがそんなに好きでない人なのかも知れない。
(1)Sonny Rollins With The Modern Jazz Quartet
1951年から1953年にかけて録音されたソニー・ロリンズのアルバムであり、13曲のうちMJQは4曲しか参加していない。ブックレットの解説も誤っていて、MJQが参加しているのは1-4ではなく、10-13である。こういうずさんさに堪えられない人は、この4枚組に手を出さない方がいいだろう。
(2)An Exceptional Encounter (with Ben Webster)
これは珍しい録音である。MJQをバックにベン・ウェブスター(ts)がごきげんに吹いている。どこかの実況録音で1953年録音とある。録音状態は、当時のエアチェック録音を聴き慣れた人以外には薦められない。ただし内容はそうとう面白い。ベン・ウェブスターが「コンファーメイション」や「ビリーズ・バウンス」をやっているというだけでも楽しいし、バラードをしっとり3曲聴かせてくれるのも嬉しい。
(3)Django
言わずと知れたMJQの代表作。アルバム・タイトル・ナンバーはジャンゴ・ラインハルトに捧げられた入魂の挽歌。委細省略。ここまでドラムスはケニー・クラーク。
(4)Concorde
言わずと知れたMJQの代表作。「朝日のようにさわやかに」などを収録。委細省略。ここからドラムスはコニー・ケイ。
【追記】委細省略のはずだったが、disc twoの9曲目、ralph's new bluesの始まるべきトラックは、なんとGershwin medley。ほんっとにずさん。ひどいものだ。
(5)Fontessa
言わずと知れたMJQの代表作。委細省略。
(6)Third Stream Music
問題作として論評を避けられることが多いような気もするが、決してわけの分からない作品ではない。ミルト・ジャクソンの駆けめぐるヴィブラホンのスリル、ブルース・フィーリングと、ジョン・ルイスのクラシック趣味によって書かれた部分との拮抗にこそMJQの魅力があるのだとしたら、そこからはなにも逸脱していない。編成が大きい分、書かれた部分の音色が多彩なだけである。3つのセッションからなる。
1)MJQとジミー・ジュフリーのグループすなわちジュフリー (cl, ts, bs)、ジム・ホール (g) 、ラルフ・ペナ (b) が合体した1956年のセッション
2)MJQと弦楽四重奏からなる1959年のセッション。指揮はガンサー・シュラー。
3)MJQとフレンチ・ホルン、フルート、バスーン、クラリネット、チェロ、ハープからなる1960年のセッション。編曲と指揮はガンサー・シュラー。
と私は書いているが、この4枚組の解説からは3曲にチェロ奏者が参加していることしか分からない。実にずさんである。
(7)Odds Against Tomorrow
ハリー・ベラフォンテ主演の映画Odds Against Tomorrowの作曲をジョン・ルイスが担当したことにより、ジョン・ルイス名義の大編成サントラ盤とMJQ名義のコンボ盤が世の中に存在するが、本4枚組に収録されているのは後者。ラヴリーな三拍子の「スケーティング・イン・セントラル・パーク」が印象的。であるが、ここでもこの4枚組の解説は混乱していて、演奏者として、ビル・エヴァンス(p)、ジム・ホール (g)などと記載している。この二人が参加しているのは大編成サントラ盤の方なのだ。
(8)Pyramid
ほぼ同時期で曲目もかぶる実況録音の『ヨーロピアン・コンサート』が素晴らしすぎるため、わりを食った感じのスタジオ録音。1959〜1960年録音。かなりテンポをアップした「ジャンゴ」の再演や、ジョン・ルイスのクラシック趣味ここに極まれりの感ある「ヴァンドーム」など聴きどころは多い。
全体として、上記のようなコンピレーションとしてのずさんさに堪えられる方にとっては、内容は5つ星です。
ラスト・コンサート(完全盤)
モダン・ジャズ・クァルテットの前にも後にもこのようなピアノ、ヴィヴラフォン、ベース、ドラムスという編成の素晴らしいクァルテットが存在しないことから、いかにこのMJQが稀有な存在で、その織り成す演奏の質が高かったのかを理解できます。
1974年11月25日、ニューヨークのリンカーン・センター「エイブリーフィッシャー・ホール」でのライヴ録音です。ライヴ特有のキズもほとんどなく、観客の拍手だけでなく、固唾を飲んでこのクァルテットの名演奏を堪能しながら、23年間という活動を惜しむかのようなファンの温かい雰囲気まで伝わってきます。
クラシックに傾倒しているジョン・ルイスの冷静で知的なピアノと、ミルト・ジャクソンの情熱的でよくスウィングするヴァイヴによる絶妙な均衡というものがこのグループにあったればこそ、名演奏が生まれているのです。解散後、再結成も果たしますが、それぞれのソロ活動の演奏が物足りないのは、全く違う個性のぶつかり合いが無いからに他なりません。ベースのパーシー・ヒース、ドラムスのコニー・ケイには光があたりませんが、二人の両極端とも言える個性の重要な接着を見事に果たしています。
このラスト・コンサートは、MJQの活動の集大成ともいうべきベスト・アルバムの趣も感じられます。クラシックの原曲をアレンジした作品は格調高く、心地よい緊張感が伝わってきます。ミルト・ジャクソンにとって、やりたい音楽の方向性ではなかったかも知れませんが、ジャズとしての価値を高めているのは、感情を込めたよくスウィングするヴァイヴ無しでは成り立ちません。それゆえ30数年経っても名演奏として聴き継がれているのでしょう。
冒頭の「Softly, As in a Morning Sunrise(朝日のようにさわやかに)」の対位法の鮮やかさにハッとさせられますが、「Skating in Central Park」のような愛らしい演奏もまた彼らの魅力ですし、その真髄を聴くことができます。