ドキュメント 宇宙飛行士選抜試験 (光文社新書)
NHKで特集した番組の取材内容をまとめた本。宇宙飛行士を本気で目指している人たちがどんな人たちなのか、最終試験に臨んだ十人を中心に迫っている。一人一人のその資質の素晴らしさもさることながら、宇宙飛行士を目指す本気度に圧倒される。
また、宇宙飛行士・とりわけ機長クラスにふさわしい資質とはどんなものなのか、どんな選抜方法で何を試すのか、興味を的確に焦点化しながら書かれている。興味をそらされることなく、飽きることなく一気に読み進められた。そして、選抜された候補者にも選抜されなかった候補者にも、等しく尊敬の念が自然とわき上がってきた。
原発を終わらせる (岩波新書)
書店の大震災・原発コーナーには既刊・新刊が山積みで玉石混交の状態にある。本書は福島原発事故以前から反原発・脱原発を訴えてきた様々な分野の14名が1人1テーマで論じており、これからの原発を考える上での基礎文献として最適である。論文の1つ1つは短いが、事故以降テレビに頻出している保安院や東電や専門家とは異なる見方が多く、またマスメディアでは報じられない見解も多い。評者が蒙を啓かれたと感じたのは以下のような話である。
第1章「福島第1原発の真実」において、元原子炉設計者の田中三彦氏は、事故の根本原因を東電公表の津波による電源喪失ではなく、地震による配管破損、冷却材喪失であったとの仮説を論証する。また同じく元設計者の後藤政志氏は、水素爆発でなく水蒸気爆発が起こっていたら(事実その可能性はあった)、事態ははるかに厳しく首都圏壊滅の惧れがあったと言う。
第2章「原発の本質的問題(科学・技術的側面)」において、金属材料学専攻の井野博満教授は、原発は先を予見できない技術だとし、圧力容器の照射脆化の危惧とともに、核分裂生成物の廃棄物処理について1,000年先まで安全とする学者グループの報告を痛烈に批判する。(使用済燃料の再処理、放射性廃棄物処理の絶望的困難さと問題点については、原子力資料情報室の上澤千尋氏や山口幸夫氏、独立アナリストの田窪雅文氏がそれぞれの観点から論述している。)
原発立地の自治体については、第3章「原発の本質的問題(社会的側面)」で、地方自治研究者の伊東久雄氏は財政・社会面でのいびつさを統計で示す。第4章「原発をどう終わらせるか」で、地方財政論の清水修二教授は、これからの都市と農村の関係見直しと自立・再生に向けての地域力に期待を寄せる。
日本の原子力の将来をめぐる議論は今後盛んになるだろうが、所詮人間の知恵では核エネルギーを制御することはできず、脱原発を目指すべきだと痛感した。
福島第一原発 ―真相と展望 (集英社新書)
一番衝撃的だったのは、即発臨界という現象についての記述だった。
インターネットで、海外の技術者で福島第一原発の3号機の爆発は臨界によるものだと
言っている人がいるらしいというのは知っていた。
ただそのときは、海外では大げさなことを言う人がいるのだろうくらいに考えて、特に注意しませんでした。
今回書籍の形で上記の即発臨界という現象の解説を読んで驚いたのには主に2つ理由があります。
1つは、アメリカではどうやら研究所で即発臨界の実験を研究所で実施していて、
原子力発電の安全管理の教育現場(研究者レベル)で解説しているらしいということ。
もう一つは、燃料プールは正常な水位と燃料集合体相互の位置関係が充分な余裕が無い場合、
わずか0.1秒で即発臨界に成り得るということ。
原子炉の安全性ばかりに目が行きがちですが、燃料プールにも潜在的な危険性があると改めて認識出来ました。
ただ、もちろん水素爆発であるか即発臨界であるかは今のところはよくわかりません。
圧力容器に水素が充満しているため、水素爆発の危険性は今もこれからも恒常的に存在するという記述も
非常に気がかりです。
マーク1型の格納容器が容積が不十分であること、
サプレッションプールで圧力抑制効果が発揮出来ない可能性があることなどは、
元日立系技術者の田中三彦の記述や、
NHKのETVに出演していたデール・ブライデンボウの証言と重なっています。
新鮮だったのは、福島第一のメルトダウンの主原因を
日本政府や東京電力が主に電源喪失と非常用復水器の捜査ミスで説明するのに反して、
著者は冷却ポンプの水没で説明している点です。
元々岩波新書の「原発を終わらせる」で田中三彦氏が
非常用復水器は電源無しで起動出来るが動作時間は限られていると記述していたので、
耐水性の無い冷却ポンプが水没すれば海水による冷却が不能になり、
電源があっても無くてもメルトダウンに向かっていくという説明は説得力がありました。
著者は原子力発電の元技術者としては非常に高い地位でキャリアを終えたようで、
最後は原子力関連の企業で副社長をしていたということです。
そのため、原子力発電のプラント設置のコストにも精通しているらしく、
「原子力発電は安価に設置可能」だが、
「安全で安価な原子力発電は不可能」と明言しているのが印象的です。
ROCK AND ROLL HERO
正直、サザンに以前ほどの期待を抱いていない私だが、それでもずっと
桑田に対する興味が衰えないのはこのような優れたアルバムを作ってくれ
るからだ。
作品として疵がない訳ではない。日本の政治体制に対する批判や現代社会
への風刺は残念ながら凡庸なジャーナリズムの域を出ない。
また音楽スタイルも(当然意識的ではあるが)斬新とは言えない。
しかし、それらを補って余りある力技が桑田にはある。
『東京』の猥雑なパワーはどうだろう。歌謡曲とかロックとかいう次元を
越えた圧倒的な存在感で鳴り響いている。
過ぎ去った時代や記憶の中の情景を描くことにおいて桑田の右に出るもの
はいない。
これからもずっと愛聴し続ける一枚だ。