インドで考えたこと (岩波新書)
英語で話して英語は通じるが、その人の意思は100パーセント他者に通じるわけではない、
との堀田さんの言葉が印象深かったです。
国際化が進む中で我々が意識しなければいけないことだと思いました。
ゴヤ 2 マドリード・砂漠と緑 (集英社文庫)
スペインの偉大な画家の若き日について、生まれた村や近くの街、建築物、戦争とその歴史がよくわかる。彼がいかに成長していったか。どうしてあのように人間を見つめた現代的な絵を描くに至ったかのはじまりである。文章も知的だ。スペインはけっして日本人が夢見る麗しい単純な国ではなかった。
日本合唱曲全集「岬の墓」團伊玖磨作品集
数ある團伊玖磨の合唱曲のなかでも「岬の墓」は屈指の名曲である。
この曲の歌詞は、船出する美しい船を岬の白い墓が見守る、という単純かつ和やかなもので、
十分ほどの演奏ながら、曲調は非常に変化に富んでいる。
男声部のやや低めで印象的なハミングのメロディから始まり、
その後は「今、過去、未来」を順に見つめるように、明瞭に曲の雰囲気が変化していく。
現代日本の合唱曲にしては古典的なクラシックらしい曲の構造を持ち、
安定感と荘重さにおいては、おそらく他の合唱曲の追随を許さないであろう。
辻氏が指揮するクロスロード・アカデミー・コーアの演奏は、人数編成は多くも少なくもないものの、
表現の豊かさと演奏の一体感において、とても素晴らしいものを聴かせてくれる。
このCDにはほかにも定番曲の「河口」も入っており、申し分ない内容と言える。
定家明月記私抄 (ちくま学芸文庫)
紀州路、熊野街道では王子社の多くに明月記からの抜粋資料が掲示されています。 これを読みつつ足を進めるうちに、後鳥羽院の随員のひとりになったような気分になってきます。 藤原定家は、後年、正二位、権中納言まで出世し、後世には小倉百人一首を残し、現在もなお歌道の名家として残る冷泉家の祖としても名を残しました。
しかし、その定家も後鳥羽院の熊野詣に随行したときには四十歳、ようやく前年に昇殿を許されたばかりです。自分の子どものような少将どもと混じり、情けなさに身の不運を嘆いたり、、院のわがままに振り回され、咳病など持病をおしての宮仕えの苦労もあるなど、800年前の官僚の日記が身近なものに思えてきます。文明は進んでも人間のやっていることというのは、たいして変わらないものだということをあらためて感じさせます。
時代の風音 (朝日文芸文庫)
専門分野の異なる3名による対談のため、各人の得意ジャンルにおける深い作品性や重さを期待すると喰い足りない感じがするのは否めない。特に宮崎氏は畑の違いからか年輪の差か進行役的立場からかやや影が薄い。ただ、逆に分野の違いから導かれる切り口の面白さや溜飲の下がる部分も多く、広範な話題や発言の端々にそれぞれの社会観・歴史観のようなものも見え隠れする。3名の肯定的(共感的?)・かつ思い入れの強すぎない読者・視聴者向け。他の著作の間に一冊この本もあると番外編的に楽しめる。サクサク読めてしまうテンポは単純に歴史文化系放談風読み物として見てもいいような気もするが、やはりヨソとはサイズがひとつちがうスケールがどことなくにじむ。個人的には、司馬氏のエッセイ作品の読者層あたりがなじみやすい内容な気が。文庫で読む分には充分なコストパフォーマンスかと。