面白南極料理人 (新潮文庫)
2001年に春風社から出た単行本の文庫化。
著者は南極越冬隊に2度に渡って参加した人物。本書は1997-98年・第38次隊の一員として南極に暮らした記録。ただし、良く知られる昭和基地ではなく、ずっと内陸のドーム基地のお話。内陸で高地にあるため、空気も薄くて寒さも厳しい。読んでいるだけで凍り付きそうになる。
9人の男性が24時間、1年近くも共同生活をすることになる。外は氷原がどこまでも続くだけだから、狭い基地の中、ものすごいストレスに苦しめられることになる。そんな状況下で、唯一の楽しみとなるのが食事である。さらに著者は調理担当者として参加しているため、全編にわたって食べ物の話が続くことになる。それにしても贅沢な食事をしている。最高級の牛肉、伊勢エビ、ウニなどを惜しみなく投入して料理がつくられる。ちょっと南極探検に参加したくなってしまったほどだ。
文章は豪快で奔放。一気に読み終えてしまう。
南極越冬隊 タロジロの真実 (小学館文庫)
ただいまドラマ南極大陸をやっていますがそのドラマの脚本のもとになっているということと、レビューがすごく良いので買いました。
南極越冬隊の現地での様子が詳しく書いてあり、その方面に興味のある方にはおすすめできます。
ただ私は「だれが」「どのような理由で」樺太犬たちを置き去りにするに至ったのかという経緯を詳細に知りたくて購入したのですが、そのところに関しては当時の状況をさらっと記載してあるだけで題名のにある「真実」というところにはたどり着いていないと思われます。
普天間の謎―基地返還問題迷走15年の総て
複雑かつ重要な「普天間基地問題」について、
その核心を把握するに必要な、
「歴史」「軍事」「政治」
を通じ、総合的視点から国民を啓蒙する書は存在しませんでした。
本著をもって嚆矢とします。
特筆すべきは、
・綿密な取材が行われており登場人物名はすべて具体名。仮名やふせ名はなく、
内容への信頼度が高い。
・問題理解の上で不可欠な在沖米軍の詳細データ、部隊運用の常識、地政学的視点が
防大出身、元空自将校だった著者を通じ余すところなく記されている
・政治的複雑さを有する普天間問題の経緯・歴史記述が、わかりやすく記されている。
・沖縄で何が起きていたのか、がよくわかる。なかでも沖縄の指導者たちが示してきた
国防、安保への覚悟、日本国に貢献する姿勢が詳細に記されている。
・わが政治指導部がこの十五年、本件でどういう動きをしていたかがつかめる
・付録で詳細な年表がついている
といったところです。
こういった内容が有機的に統合され、十分な発酵がなされた結果、
読みやすくて滋養あふれる、画期的な「普天間(沖縄の米軍)基地問題」啓蒙書に
仕上がった感を持ちます。
これから先、普天間問題を口にする際は絶対に欠かすことのできない基本書に
なることでしょう。古典としての価値ある内容と思います。
これ一冊あれば、普天間問題に関するすべてが把握できるといって過言ではありま
せん。
吉田茂の自問―敗戦、そして報告書「日本外交の過誤」
吉田茂首相が15年戦争に至る日本外交の反省を纏めさせた文書「日本外交の過誤」に元外交官が解説を加えたもの。50年秘匿だったこともあり、困難だった満州経営、満鉄並行線の存在、外圧期待の政府首脳等の記載事実は戦後60年を経ても大多数の国民に伝わってはいない。一方で日本は東アジアで孤立を深めており、世界に友人がいない状況は当時と全く変わらない。中国や韓国の主張を丸呑みするわけにはいかないが、これを読む限り歴史認識の欠如は確かに存在する。本書は臨場感があり読み物としても優れていて、外交官達の息遣いが聞こえて来る。歴史の潮流に個人が抗うことは難しいが、事なかれ、先送りの典型たる広田弘毅の実像には憤りさえ覚える。また昨今の迷走を見る限り外務省の本質は変わっていない。外交を国民に取り戻しグローバリズムを生き抜くためにも、今こそ国民が手にする本だと思う。