ユングが当時、どういう学問の背景の中で「内向」と「外向」という対をなす性格類型を唱えるようになったのか、その歴史から説き起こされている。
人の素質の違いを明らかにすることは、無用な誤解や対立を避けることにつながる。それは、小さなことのようで、実は重要なことではないだろうか。人間や思想の根本理解にも関わることかもしれない。
むずかしい前半を我慢して読むと、後半は具体的な分析の実例が豊富で、ユングの類型論の奥深さを楽しむことができる。
外交的感情タイプの若尾文子、内向的感情タイプの大島渚夫人、小山明子、外見に無頓着な内向的直観タイプのコロンボ警部、こうした実名をあげての説明が、面白い。「感情」や「直観」という概念も身近な有名人の例でぐっとわかりやすくなる。
もっとも、時代が過ぎて、「若尾文子って誰よ?」というような話になると、せっかくの慧眼もすこし色褪せるのだろうが。
秋山さと子氏によりユング心理学とフロイトとの違いを際立たせ、彼女自身の心理学者としての
知見も併記されている。精神心理学と哲学を知る入門書として、最適の本だと思う。
若い時にこの本を手にし、心理学、哲学、宗教と幅広く知識を得たいと思ったものである。それ
から数十年を経て、今、また、読み直してみた。人間の脳の働きや仕組みが科学的に証明されつ
つある中で、科学では解明されない未知の領域も沢山ある。
人類が発生し言語が生まれ、そして、宗教、哲学が発展していく。精神心理学も同様に発展、変
化をしながら、複雑な人間社会の病巣に重要な成果を上げていく事と思う。
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