サンドマンの本編終了後に発表された番外編で、エンドレスひとりひとりを主人公をする7章(それぞれ違う画家)で構成されています。
ディスペアとデスティニーはコマ割せず、アーティスティックな散文詩のような感じ。
他はストーリー性があります。デスとディストラクションは絵柄も話も普通のコミック仕立て、ドリームは綺麗な水彩風の絵。
この本で印象に残ったのは、ディザイアとデリリアムの話。
前者は古代ヨーロッパが舞台で、族長となる青年を愛した情熱的な女性が主人公です。ヒロインは魔女に「私が彼を望むのと同じくらい、彼に私を望ませて」と願います。これまで、ディザイアが今ひとつ美しく描かれてこなかったのが不満だったのですが、エロティックなタロットカードで知られるミロ・マナラのディザイアは、欲望という名にふさわしい美しさで、「これだ!」という感じです。
デリリアムの方は、本編の後日譚にもなっていて、例によって迷子になってしまった感じの彼女を救うことが、現実社会で心の病気になってしまった少女を救うことと重なっています。
ただの映画好きの素人目の評価です。 アガサ・クリスティー原作の映画はどれも大好きで、古くはマレーネ・デートリッヒの「情婦」や、その後のピーター・ユスチノフの「ナイル殺人事件」、「地中海殺人事件」、「死海殺人事件」等々、皆大変楽しめました。 本作品も是非見てみたかった作品の一つでしたが、今まで入手できませんでしたから、今回の再販は非常に嬉しいです。 そして、私の期待を裏切ることなく面白い作品でした。原作の「終りなき世に生まれつく」を未読だったのも良かったのかもしれません。 ネタバレになるかもしれませんが、プロットのバックボーンは、「ナイル殺人事件」や「地中海殺人事件」、坂口安吾の「不連続殺人事件」と同様なので、オチにはそれ程の新鮮味はありませんでしたが、全体の雰囲気が私的には気に入った作品でした。 ヘイリー・ミルズの可愛さと可憐さも良かったし、ボンドガールになるブリット・エクランドが見れたのも良かったです。 ただ、ブリット・エクランドを含め、物語の中心になる夫婦の周辺の人々についての描き込みが不十分だったのが少し残念でした。もう少し深く描けていたら、もっと面白くなったと思います。この辺が、「ナイル殺人事件」や「地中海殺人事件」と比べると劣るので、日本では公開されなかったのかもしれませんね。作品自体も地味ですし。結果、2作品とは人気・知名度において大きく引き離されているのでしょう。 謎解きそのものよりも、ストーリーテリングに軸足を置いたような作品だと思いますので、純粋に謎解きを楽しみたい方には不向きかもしれません。(推理小説も大好き人間ですが、そっちの観点からすると、本作品は掟破りをしていると思われる方もいるでしょうね。同じアガサ・クリスティーの「アクロイド殺人事件」の手法と同じですから)
「終わりなき夜に生まれつく」の題で訳本が出ているこの本は、クリスティの推理小説の中では少し毛色の変わった作品です。まず最初に客観的な評価を言うと、推理小説として読んだ場合には、何か違和感のようなものを感じて期待外れに思われる方が多いのではないかと思います。私も最初に読んだ時には、「犯人は誰か?」とか「動機は?」「トリックは?」というような事を考えて読んでいたので、たいして面白いとは思いませんでした。他のクリスティの名だたる傑作の数々と比較すると、かなり見劣りがする観は否めません。もともとは短編として書いた話を膨らませて長編に仕立てているので、ややもするとテンポが冗長に感じたり、とりとめもなく散漫な主人公の一人称の語り口を退屈に思うかもしれません。でも、一見ストーリーとは何の関係もないように見える主人公のこの「風に流されあてもなく放浪する浮き雲」のような語りと性格こそがこの物語の本質なのです。この本はもう30年くらい前から何度も繰り返し読み続け、ついには原文で読んでみたいと思い原書を購入しました。読み返しているうちに後からじわじわと来る作品です。そしてクリスティには珍しく情景が目に浮かぶような叙情的なシーンが多く、特に心に残っている場面は中盤で主人公の妻がギターを弾きながら題の元になったウィリアム・ブレイクの詩を口ずさむところです。「夜ごと朝ごと みじめに生まれつく人あり 朝ごと夜ごと 幸せとよろこびに生まれつく人あり 終わりなき夜に生まれつく人もあり」 読者の間ではあまり評価が高くない作品ですが、クリスティ本人は自選ベスト10のひとつに挙げています。ちなみにその他のクリスティ自選ベスト10は(順位はなし)……そして誰もいなくなった/アクロイド殺し/オリエント急行の殺人/予告殺人/火曜クラブ/ゼロ時間へ/ねじれた家/無実はさいなむ/動く指
クリスティにその親しみ易さゆえにコージーミステリ的なイメージを抱いている人にこそ読んで欲しい隠れた傑作。(コージー派を軽んじている訳ではない、念の為) ダークでロマンティックで怖ろしく残酷な物語。 ポアロもミス・マープルも出てこないが故に、心理描写の巧みさと騙しのテクニックの冴えがさらに味わえる。 トマス・H・クックなどのファンにも薦めたい一冊。
邦訳のタイトルは確かこうだったと思います。これはクリスティにしては珍しく暗い感じの推理小説。結末も暗い。だからあまり好きではないのですが、読み返してみると味があるというかなんというか。大金持ちの箱入り娘と結婚して逆タマに乗った主人公は、ハンサムで魅力的だが仕事が長続きしない男。二人は田舎で平和に暮らしていたが、結婚後間もなく妻は不慮の事故で亡くなった。果たしてこれは単なる事故だったのかどうか。当然のように相続人である男は疑われる。結果は意外といえば意外、当然といえば当然だが、男の気持ちの変化がおもしろい。
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