一昔前、角川文庫を代表する作家のひとりであった片岡義男の原作をもとに、角川春樹(河原で自転車をこいでいるおやじ役で登場)がプロデュースした「角川」映画。高度経済成長期後半の青春のやるせない部分をやるせなく描いた映画になっている。しかし、藤田敏八の演出は現代の目から見ると少々古くて泥臭すぎ、若い人は相当の違和感を感じるだろう。また、片岡義男的バイク愛や片岡義男的「敏感すぎて苦しい」若者の感性は映画からはほとんど伝わってこず、原作を愛するものからみると、かなり悲しい仕上がりだ。主人公たちが、たまり場にしている「クイーンエリザベス」という店のカウンターに並んでいる(しかも、この酒だけしか並んでない)「クイーンエリザベス」という酒は当時、角川が売り出そうとしていた酒である。片岡義男という商業主義とは、もっとも遠い原作を、もっとも商業主義的な角川映画がまちがって料理してしまった。そんな感じである。しかし、浅野温子はとてもきれい!
相変わらず著者独特のタイトル付けの巧さにまずうならされる。写真、食材、文具などへのこだわり、うんちくがけして嫌味にならずさらりと読める。短編小説の名手だけにエッセイも適度な距離感が保たれていてとても心地よく響いてくる。教科書出版の東京書籍からの刊行で、多少不安もあったがとてもいい素材を厳選しており読み応えがあった。編集者に感謝!
オートバイ好き、そうでない方もこの映画を見ると乗りたくなります。主演の原田貴和子、竹内力もいい味出してます。特にカワサキW3のエキゾーストがすごく魅力的でこのオートバイが欲しくなること間違いない!!!
写真、野球、喫茶店、コーヒー豆、鯛焼きなどなにげない日常的な素材が次々と連携されて、一冊の本を構成してゆく構成はこの作者ならでは。視覚的な印象を文章にして、違和感のない仮想感を見事に描ききる技術はもう完成の域に達している感も。
ありそうで、なさそうな独特の小説世界を描く作者の「全集」(いったい何冊になるのだろうか?)をぜひ刊行していただきたい。まとめて過去の作品もそろそろ読み返したくなってきた。志ある出版社と編集者のみなさま、ぜひよろしくお願いします。
片岡義男氏の小説は、かつて角川文庫からラッシュのように文庫がバンバン刊行されていたあの頃、誰もが手にとったことだろう。 私事ではありますが、時々、背筋をしゃきっと伸ばして、物事に向かい合ってないなあ・・最近、なんて思うことがある。 そんな時、片岡義男氏の小説に出てくる、綺麗な女の人の背中を思い出す。 彼女たちは、歳をとって、子供ができても、きっと美しい歩き方をしてるんだろう。 冒頭の『いつもなにか書いていた人』にも、片岡氏のファンのウエイトレスの女性とのその後が邂逅が描かれているが、 「あの頃から、今この瞬間のここまで、私は私の旅をしてきたのよね」などとのたまう彼女は、小説の登場人物そのものじゃないか!
みんな歳を取る、 でも変われないものの中で、片岡義男氏は、やはり凛とした姿勢でエッセイも書いて小説も書き続けているのだろうな。
「真夜中にセロリの茎が」では、珍しく自分の小説について言及していて興味深かった。 若いファンはどうかと思うけど、昔、「角川文庫」を手にとった読者は、立ち読みでもいいから、もう一度手にとって見ることをおすすめする。
やっぱり乾いた風が吹いてるけど、そいつにほんのりした湿り気を感じるかもしれないから、ね。
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