セルゲイ・エイゼンシュテインの未完のフィルムを 同時の助監督であったグリゴリー・アレクサンドルフが その当時のアレクサンドルフの完成イメージや エイゼンシュテインの絵コンテなどから 50年の時を経て編集し仕上げた作品。 記録・歴史映画のような部分あり ストーリー的な部分もあり ナレーション以外のセリフはないため 観る側も想像力をフル稼働して見ることとなる。 全体的にはメキシコの歴史映画のような感じではあるけれど。 1930年前後の監督エイゼンシュテインの目 1980年前後の編集アレクサンドルフの目 そして21世紀になった観客の僕たちの目。 僕たちの反応をエイゼンシュテインはどう感じているのだろうか。 長い年月と多くの人の目を通して作られたこの映画には 映画と人間自身の命の力強さを感じる。
このDVDは2011年にNHKの撮影隊がタラウマラ族を取材し、映像におさめたものを編集したものです。 Born to runという本を読んだ後、このDVDに興味がわいたため、観てみることにしました。
Born to runに関連した人物達(著者のクリストファーさんやタラウマラ族ランナーのシルビーノさん、アルヌルフォさん、進化人類学者のリバーマン博士ら)も登場します。
主な内容は、
・シルビーノさんとアルヌルフォさんの日常(食事、畑仕事、水汲み、生活環境、家の中の様子、家族など)
・シルビーノさんとアルヌルフォさんの身体能力の測定(身長、体重、垂直跳び、走力)
・タラウマラ族に代々伝わる伝統行事の、蹴ったボールを追いかける「ララヒッパリ」の様子
・タラウマラ族が履いているサンダル「ワラッチ」の情報
・タラウマラ族の走りの解説(足の前側で着地する走法)
・メキシコで行われた山岳マラソン大会の様子
という感じでした。
Born to runを既に読まれた方にとっては、新しい情報はそこまで無いように思います。 情報自体はBorn to runの方が濃いですが、このDVDは本の内容を簡素にし、うまくまとめたような感じでした。
個人的に思ったことは、 昔からの伝統を守って生きているいるタラウマラ族の生活は、現代の日本人にとっては非常に不便ではあります。 しかし、その一方、彼らの生活はシンプルかつ健康的であり、私達が普段の生活を省みるときのヒントになるように感じました。 また、タラウマラ族の履いているサンダルの素材が廃タイヤだと知り、興味深く感じました。
Born to runを読んで、本に登場した人物の映像を見てみたいという方や、 Born to runという本には興味があるけど本を読むのは苦手という方や、 ランニングが趣味の方におすすめです。
2010年のメキシコ映画。 アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督作品です。 同監督の「21グラム」も重かったですが、本作はさらに重さを増しており、2時間半の長丁場ですが、グイグイと引っ張るストーリー展開が特徴的。
主人公ウスバル(ハビエル・バルデム)はバルセロナの貧民街で、中国や南米からの不法移民に職を斡旋し、その上前をはねることで生計を立てる中年 男。 彼には特殊な能力があり、それは「死者の魂を見たり、話を聞くことができる」というもの。 超常的な能力ですが、この能力が物語の中核を成すかといえばそうでもなく、彼を苦しめることはあっても彼を助けるものではないわけです。
2人の幼い子どもと双極性障害を持つ別居中の妻がいて、そんな中でもなんとか人生を少しでもまともなものにしようと奮闘するのですが、とにかくす べてが悪い方向にしか向かわず、そんな中での彼の苛立ちは見ていても心苦しいほど。 ハビエル・バルデムは悪役を演じることが多いので、ロクデモナシのイメージが濃いですね。 ですが本作では真剣に子どもと向き合い、物事が思うようにゆかないことに対する憔悴から子供につらく当たることもありますが、学校の送り迎えや食 事の支度をする良き父としての姿が描かれます。 仕事に対しても彼はけして「悪徳」「強欲」ではなく、仕事仲間に「搾取はやめて、労働者に賃金を還元しろ」と怒鳴るほどの道徳をもって接していま す。
そんな日常の中、体調不良のために病院で検査を受けてみると、「余命2ヶ月の末期癌」であることが彼に追い打ちをかけます。 愛する子どもたちになんとか普通の生活を送ってほしい、自分の死後も苦労しないように、と彼は奔走するのですが、当てにしていた妻も症状が改善せ ずに子供に暴力を振るったり、子供を置き去りにしたり。 一方では、仕事を世話していた中国人移民の生活を少しでも良いものにしようと買い与えた暖房器具に欠陥があり、それが原因で移民25人を死亡させ てしまったり、と彼の善意がことごとく裏切られ、あまりにも厳しすぎる現実が彼を苦しめます。
公私共にトラブル続きの彼は、やむなく妻から子供を引き上げ、面倒を見ていた不法移民男性(強制送還されて妻だけがバルセロナに残る)の妻に大金 とともに自分の死後を考えて子供を託そうとしますが、その不法移民女性もその大金を持って逃げる始末。 しかも、その女性も命を落とすことになり、さまよえる魂として彼の前に戻ってきます。
彼自身は、少しでも普通の生活を送りたかったり、恵まれない環境にある人にわずかでも希望を与えたかっただけなのですが、何もかもが悪い結果を招 いてしまうという「負の連鎖」。 結果として、誰一人として彼は救うことができません。
実は、この作品は冒頭で、「彼が父と生き別れており、しかも父の顔を知らず、常にそれを追い求めていると」、「彼が死んでしまうこと」明かされて います。 そのため、彼が家族に対してとくに親切にすることや、死んでしまったあとに残されたものの辛さを人一倍理解していることが劇中通じ、様々なシーン で表現されており、テーマの一つが「父性」であることは間違い無さそうですね。 そして最後にも、冒頭のシーンが、やや表現を変えて繰り返されます。 同じシーンではありますが、当然ながら本編を見始めた時、見終えようとしたとき、ではその印象が変わります。
「死にたくない」と願う彼、そして死を受け入れて「忘れられたくない」と思う彼。 きっと、同じシーンでも最後の方では、彼に対する理解が増していると同時に、観るものは「彼の死」を受け入れ、彼と同じ気持になっているかもしれ ない、と思わせる一本でした。
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