20世紀にニューヨーク証券取引所に端を発した世界的大恐慌以前の3大バブルのひとつ、ミシシッピー事件を小説にしたもの。 金に飢えた有象無象の人々が過熱していく相場に巻き込まれていく様子が、実にリアルで面白かった。
投資するか、それとも投資家の仲介役に甘んじるか、投資するなら価格下落リスクをどうヘッジするか、つまり第3者にどうリスク移転 するか、このリスクを最小化しつつ利益を最大化する手法について小説で記述されているものは、そのまま現代でも「証券化」という 技術で応用されており、筆者も金融技術についてもよく研究しているなと感心した。 また「存在しない黄金を根拠とする国家発行の偽金、すなわち不換紙幣」による富の創造という大実験が、ミシシッツピ事件の本質であり まさしく現代史で出てくる信用恐慌、ニクソンショック以前にもあったことは驚きだった。
やる気の出る音楽でした。 これからもリピートありですね。 買ってよかった。
ファンタジーという枠組みで捉えて甘くみると大やけどする、見事なまでに完璧な小説です。趣向でいえば、憂鬱といえば「甘美なる」と形容したくなる、没落貴族、ハプスブルグ家と聞くとついうっとりしてしまうといった類の人向け、でしょうか。 ストーリーだけでも十分魅力的ですが、歴史的背景が驚く程しっかり描かれています。ある程度の年齢に達し知識(専門的というわけでなくあくまで常識程度の)身につけてしまうと、わざわざ「現在の日本」以外を舞台に設定しておいて俄仕込みのいいかげんなリサーチを元に書いたような小説には、陳腐さを感じて興ざめしてしまいますが、この本は十分なリアルさを感じられます。かといって、ストーリーの運びを邪魔するようなまどろっこしい歴史の説明がある訳ではありません。簡潔な文と勢いある運びでぐんぐん作品世界にハマれます。 大人が、物足りなさを感じたり白けたりすることなく、心から楽しめる読みごたえある一冊だと思います。 作風を他の日本人作家で例えることは難しいですが、川上弘美あたりとはかなり対極なのは確実かな。 漢字が多いとダメ、外国文学アレルギーだ、という人には少しつらいかもしれません。
初めて聴いた瞬間、なんとも言えない心地よさを感じました。トランペットの優しく語りかける演奏には感動しました。また伴奏との息もピッタリ。聴く度に惚れ惚れします。
舞台は、革命前後のウクライナ。 豊かな地主の家に生まれた若者は、激動する時代にすべてを失いながらも、 力強く、したたかに、生と死の挟間をかろうじて生きる。 乾いた大地でくり広げられる壮大なドラマは、 生半なヒューマニズムなど寄せつけない。
ミノタウロスとはギリシャ神話で、ミノス王の子にして 上半身が牛で下半身が人間というモンスター。 長じるにつれ凶暴の度を増し、最後はアテナイの王子に討たれる。 主人公はまさに、革命が産み落としたミノタウロスだ。
予備知識がなければ、翻訳文学と見紛うだろう。 80年代後半に突然あらわれ、当時の私のゆる〜い読書に冷水を浴びせた、 アゴタ・クリストフさんの『悪童日記』から連なる三部作を思い起こさせる。
そして、中上健次さん亡き後「日本文学は終わった」と嘯き(汗)、 しばらくこの国の作家の作品を手にしなかった私は・・・ 予備知識がなかった。
わずか数ページ。 すでに、これから展開するだろう酷薄な世界を予感させ、 あれ?日本人の作品だったよな──と改めて奥付の著者名を確認する。 佐藤亜紀・・・女性と知って、少し納得する。
佐藤さんのブログ「新大蟻食の生活と意見」を読む。 舌鋒鋭く、楽しい。 今回初めて、『鏡の影』をめぐる騒動を知る。 なるほど。読まざるをない。
いずれにしても、『ミノタウロス』は 読み手のこれまでの読書歴と世界観を問うている。 全霊を傾けて臨むべき、骨太の作品である。
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