アート・リンゼイはニューヨーク生まれの白人だが、3歳から18歳までブラジルで過ごした。それゆえブラジル音楽に造詣が深く、これまでにカエターノ・ヴェローゾやマリーザ・モンチなどのプロデュースを手がけ、ブラジル音楽に新しい地平を切り開いてきた。おそらく彼ほどブラジル音楽を深く愛し、なおかつ理解している米国人はいないだろう。 そんなアートは前衛的なギタリストでもあるが、ここではボーカルに徹している。演奏を務めているのは、ニューヨークとブラジルのミュージシャン。3はアル・グリーン、10はプリンスのカバーだが、後者にはブラジルのパーカッション集団チンバラータから3人の精鋭が参加している。 生楽器とドラム・ループなどを組み合わせたサウンドは音数が抑制されており、また、アートは感情を抑え、ささやくように歌っている。いわば"抑制の美学"に貫かれた作品だ。もちろん下敷きになっているのは、ブラジルの古式ゆかしいマーチやボサノバなどで、4と7はポルトガル語で歌われている。 世の中にはいくら音が大きくても、緊張感に乏しい音楽がある。それとは逆にボサノバのようにソフトで静かだが、転調が多く、テンションが高いという音楽もある。アートはそうしたボサノバの本質を見抜いているアーティストだけに、ここで繰り広げられている音楽はつつましく穏やかだが、美しい刺を秘めており、心地よい緊張感にあふれている。そしてまた、この音楽を聴いていると、ニューヨークとブラジル、遠い過去と20世紀末が目の前に立ち現れてくる。とりわけ10が喚起するイメージは斬新だ。
ex-DNAの(なんて、今更いらないか)鬼才アートリンゼイ2004年発表アルバム。今作もアート節全開、都会的でクールなブラジリアンサウンド。聴けば聴くほどやみつきになってしまう大人なアヴァンポップです。
~アート・リンゼイは、ギターサウンズの既成概念をブチ壊したイノベーターと位置づけられるでしょう。ジョン・ゾーン(as)クリスチャン・マークレイ(ターンテーブル)らとNYで革新的な音楽を追求していた一派の出身ですが、ブラジルコンテンポラリーのカエターノ・ヴェローゾや坂本龍一らとのコラボレイトでも知られる先進的なギタリストです。彼は楽譜が読めないそうですが、それゆえ既成のセオリーに捕われない自由で斬新なプレイは、同じくgのビル・フリゼールと並び唯一無二の個性です。 ブラジルでの作品などと比べると雰囲気は強面ですが、このアルバムでは3ピースのギターサウンドを極め本性を曝け出しています、数秒の曲などがあり、実験精神に富んでおります。ハードなギターサウンドもいい加減食傷ぎみの方には、良い刺激になるでしょう。新しいものに価値を見るクリエイティヴな人たちに是非。~
Illuminated In The City That Reads が◎。
2.ムーヴィング・オン が当時のパルコのCMにクライスラービルの映像と共に使われたせいか、当時の、まだ危険だった頃のニューヨークの雰囲気を思い出させるアルバムである。 他にラップやR&Bを意識した曲もあり、ニューヨークの香りがする反面、ボサノバ調の曲もあるのだが、これまたやっぱり不思議とニューヨークの香りがするのである。 世界中のものが何でも揃う街、世界中の人が憧れる街、ニューヨークを坂本が音楽にすればこんな音になるのだろう。
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