この演奏が録音されたのは1979年。ビルスマは、古楽器を使った古楽器奏者として代表的な演奏を聴かせている。 その彼も最初から古楽派であったわけではない。この辺の事情については、 ビルスマ自身がCDのライナーで述べている。 (8ページほどのインタビューだが、中身が濃いので、この曲のCDを買うなら、日本盤がいい)。
バッハを弾きだした頃、彼はその演奏を、自分のものも、他人のものも、まったく楽しめなかった。 だがレオンハルト、ブリュッヘンと知り合い、交流する中で、考え方が決定的に変化した。 バッハが作曲した組曲は、サラバンド、クーラント、アルマンドなどから成る「舞曲」なのだと 解釈するようになった。「それはシリアスな劇ではなく、ダンスなのです」と彼は言う。 「そう思うようになってから、この曲を弾くことがとても楽しい経験になった。ますます好きになっていく」 と語っている。
この13年後、1992年に彼は再度、バッハの「無伴奏チェロ組曲」アルバムを制作する。 ここでの彼の変貌ぶりがすごい。成熟や成長という表現では言いあらわせないほどの変化。 それは単なる弾き直しなどではなく、原典をさらい、楽器を変え、弓と弦を変え、すべてを徹底的に見直して、 突き詰めた後に現れた自由であり、響き。ジャンルを超えた「現代の名演」。 その変貌を、飛躍を、実現できたところが、ビルスマのビルスマたるゆえん。
今ではあり得ない、スター勢ぞろいの名演。というのは、もうおのおのが一家をなした現在、共演することはもはや望めないからである。 ソリストの技量が優れているのはもちろんだが(細かいことを書くと、クイケン兄弟の中で技量が若干劣るトラヴェルソのバルトルドが参加せず、ヴィーラントが第一チェロでなくアンナー・ビルスマが参加しているのは見逃せない)、全曲を通じて感じるのは統率するレオンハルトの確乎とした意志である。そういう意味では、やはり有名な第五番の長大なチェンバロ・ソロが全体の白眉だと思われる(欲を言えば、'80後半に新しくコレクションに加えたミートケのコピーか、イタリア協奏曲で使用したツェルのモデルを使ってくれたら本当によかったのに・・・そう、もともとこの曲はベルリンから新しく届いたミートケのお披露目の曲として書かれたことは有名ですよね)。 この演奏を、単に「オリジナル楽器を使って、当時のスタイルを再現した」もの、とだけとらえるのはとんでもない間違いである。レオンハルトをはじめとするフランドル古楽派には、どうして古楽器を使うか、どうして古楽器でなければならないか、という明確な理由があるのだから(つまり、はっきり言えばイギリス古楽派にはそれがない)。 まあ、この演奏を持っていれば他はいらないでしょう。あえて二枚目を挙げるなら、通人向きのブッシュ/モイーズ/ゼルキン盤を。
アンナービルスマの叙情あふれる演奏です。 ただし、音質は決して良いとは言えないので、デジタルリマスターの作成を強く希望します。 しかしながら、演奏のすばらしさはやはり捨てがたく、聞く価値があります。
「涙のパヴァーヌ」という曲が聞きたくて、手に取りました。
この「涙のパヴァーヌ」は、元々は16〜17世紀に英国などで活躍したリュート奏者ダウランドによって作曲されたリュート歌曲です。
このCDに収録されているのはこの曲を元に、オランダの作曲家ヤコブ・ファン・エイクがリコーダーの作品として作った変奏曲です。
エイクは盲目の音楽家で、教会の中庭でリコーダーの演奏をして人々を楽しませていたそうです…。
そんな風景を想像しながらこの曲を聴いていると、頭の中がふっと17世紀に飛んでしまうような、そんな心地良い感覚になります。
もう一曲。この次に収録されているコレルリのソナタ≪ラ・フォリア≫。
もう、ただただ聞いているだけで心地良いといった感じ。
もちろんブリュッヘンのリコーダーが本当に素晴らしいのですが、ビルスマのチェロと レオンハルトのチェンバロも素晴らしい!
余談ですが、私はビルスマの演奏するバッハの無伴奏チェロ組曲を聞いてから、彼の演奏がとても好きになりました。
この<ラ・フォリア>、元々はヴァイオリンの為に書かれた作品ですが、私はこのリコーダーによる演奏の方が好きかも…。
音の響き、演奏共にすばらしい。ビルスマも何度か無伴奏を録音しているが、やはりこの盤から伝わる音楽の臨場感は他を圧倒している。これはiPODやWalkmanなどのヘッドフォンステレオではなく、なるべく一人前のオーディオで鑑賞したい音源である。 部屋中に響き渡る低音の脈動、そして抑揚。音楽は3次元で広がり、感受性豊かな日は感動に涙する。そんな数少ないアルバムである。古典楽器を使用していたり20Bitで録音していたり、音作りも凝っており、演奏者と制作者のこだわりが実を結んでいる。
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