オール・カラーですし、B5版というサイズは美術のムックとしてはよく工夫され、読者に配慮された内容だと高く評価しています。
国学院大学文学部教授の小池寿子氏(西洋美術史)の監修ですが、執筆の最初に名前が挙がっている中村剛士(Tak)さんは、「弐代目・青い日記帳」を毎日更新されている有名美術ブロガーです。「フェルメール30作品の解説執筆と全体の編集に携わった一冊」とのことで、それもあって本書を早速購入しました。「パーフェクト鑑賞講座」の6作品以外の作品解説をされているようです。「フェルメール30作品 誌上ギャラリー」では1つ1つの作品の特徴をとらえ、年代順に並べ、他の作品や画家との類似性やあまり知られていない話などを盛り込み、読ませる工夫が感じられました。
黄色の帯にあるように「初めてでも楽しく観賞できるフェルメール入門」の通りで、分かりやすさや読みやすさが全編を貫いていました。 パーフェクト鑑賞講座として(01「真珠の耳飾りの少女」 02「牛乳を注ぐ女」 03「手紙を読む青衣の女」 04「絵画芸術」 05「真珠の首飾りの女」 06「デルフトの眺望」)の6作品を取り上げ、それぞれ6ページの分量で詳しく説明が施されています。また重要な箇所を原寸大に拡大してありました。実際美術館で拝見した作品が多いのですが、ここまで近くで見ることはできませんので、美術好きには有り難い配慮でした。
コラムも充実してあり、中野京子さんの「私のフェルメール」では、伝グイド・レーニの「ブアトリーチェ・チェンチ」を取り上げ、「真珠の耳飾りの少女」との類似性やフェルメールがその作品を知っていた可能性にも言及しています。これは参考になる記述でした。ラピスラズリの発色は素晴らしく、本書でも印刷には注意を払われています。 特に黄ばんだ保護膜を取り除いた「手紙を読む青衣の女(14p)」は、その上品な質感が上手く再現出来ていたと思いました。 「絵画芸術」のフェルメールのサインも原寸大なら見て取れます。当時のネーデルランドの国力の勢いや歴史が背景の地図に表れており、「歴史画を描くことが最高のステータス(25p)」を具現化したとの説明も理解できました。 「フェルメールは『小品』の名手」では作品の大きさの比較があり、相対的な大きさのイメージをつかめるような工夫がしてあります。
17世紀当時のオランダの歴史状況も押さえられており、同時代の風俗画家のヤン・ステーン、ハブリエル・メツー、ピーテル・デ・ホーホの作品も掲げられていました。 「フェルメールを「語る」ための5つのキーワード」において、レンブラントを実力と知名度で「最大のライバル(7p)」だという表現は、2人の年齢、活躍時代、接触度合を考慮するとどうかなと思いました。なお88p以降の紹介はオランダ美術史を知る上では大切な情報でしょう。
その他の項目として、世紀の贋作事件はいかにして起こったのか? 私のフェルメール 三浦奈保子、“謎の画家”43年の生涯をたどってみよう、再現! フェルメールの食卓 林綾野、フェルメールの部屋 マーレル、ちょっと美術史 オランダの同時代の画家たち、他国の同時代の巨匠たち、フェルメール以前・以後の「北方」の画家たち、フェルメールに出会える! 全17美術館ガイドなど、盛りだくさんな情報を上手く1冊に収めてあると思いました。
宝島社のこのムック、フェルメールは、現存する全37作品を徹底訂分析しています。 ヨハネス・フェルメール(1632年10/31?〜1675年12/15?)は、その生涯の殆どを故郷のデルフトで過ごしました。フェルメールの現存する作品は37作で、非常に少ないといえるでしょう。これは彼が旅館業を営んでいて暇がなかったからか、もしくは元来の遅筆の為と考えられます。 フェルメールの絵の特徴は、殆どの絵が風俗画、或いは室内画で、風景画は僅か2点に過ぎません。そして、描かれているのは殆どが女性で、それも1人の物が圧倒的に多いです。それに、11人と子沢山であったにも拘らず、彼の絵には子供が全く登場しません。何故だろう?そして、フェルメールの室内画で最も多いのは、手紙を書く女、或いは、手紙を読む女です。これは、当時のオランダが商業的に上昇期にあり、識字率が非常に高かった為と考えられます。 フェルメールは色彩の魔術師、光の魔術師と称され、かのゴッホもその魅力に取り付かれたといわれています。やはり、特徴的なのは、黄色と青色の色使いでしょう。とくに青色は、フェルメール・ブルーと称せられ、彼特有の物です。 巻頭はオランダのモナリザとも称せられ、非常に人気の高い、真珠の耳飾の少女が紹介されています。特定のモデルのいない(トローニー)少女の胸像で、背景は真っ暗で、横向きの少女がふとこちらを向いた瞬間を捉えています。赤い唇、真珠、つぶらな瞳・・非常に神秘的な感じがします。 本書では、茂木さん、小松さんのエッセイ他、多くの興味深い記事が掲載されています。そして、全作品が解説されています。私は高橋さんのフェルメールの絵とCDジャケットの関連について述べたエッセイを興味深く読ませていただきました。 しかし、本書の目玉は真珠の耳飾の少女のグラフィックトートとでしょう。よく出来ていますが、持つのは恥ずかしいので奥さんに上げました。
前作に引き続き本書は、生物とは静止状態にあるのではなく物質とエネルギーと情報が流れていく「動的平衡」の状態にあるという著者独特の生物感に彩られている。
「まえがきにかえて」で、様々な芸術からも無常感を感じ取り、バッハのゴルトベルグ変奏曲の多様な演奏からは遺伝子を音楽における楽譜に例え、エビジェネティクスという遺伝子だけによらない新しい生命観を提示している。
本書で紹介される最新の研究成果も、興味深い。 人にもフェロモンを感じるヤコブソン器官という鼻とは別に匂いを感じ取ることができる器官を持っているという。実際に、ヒトの皮膚から抽出されたPDDから、自律神経や内分泌系に影響を与えることがわかっているというからおもしろい。 そして、動物が外から摂取しなければ生きていけない必須アミノ酸をなぜ自分で合成することを放棄したのか、なぜ非必須アミノ酸であるグルタミン酸にうまみを感じるのかの謎解きをし、 ある特定の植物の葉しか食べない蝶は、限りある資源を巡って無益な争いを避けるために生態系が作り出したバランスであり、この多様性が動的平衡の強靱さを支えているとする。
また、直接は述べていないが、3.11の大震災と原発事故についても間接的に述べている。 「近代科学は新しい物質や新しいメカニズムや新しいエネルギーを作り出すことに心血を注いできたが、そのテクノロジーが生み出した余剰物、廃棄物、排出物によってリベンジを受けている。機械は生物ではない。しかし機械のあり方を生物が採用しているシステムに学ぶことは可能である。すべてのシステムをできるだけ柔らかく緩やかに作っておく。先回りして自らを壊し再構築する。これが動的平衡である。」
最新の生物学を巡る研究成果も披露されつつ、未だ解明されない生命の不思議さと奥深さを改めて感じた。
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