ヴァーチャルリアリティの恐怖を描いたSFモノの傑作。最初は自らが書いた作品がゲーム化されると聞き、喜び勇んでテストモニターになったのだが、そのあまりにもリアルなヴァーチャルの世界に引き込まれ、いつしか現実と虚構の境がつかなくなる。スピード感あふれるストーリーに引き込まれると同時に、ラストの展開に恐怖を感じずにはいられない。
SF文学の役割の一つは、現実の一側面を架空の技術という道具立てにより際立たせ、より理解しやすい形で読者に見せることであろう。その意味で、本作品は実にSFらしいSF作品である。データベースを脳に直接接続した学芸員の日常というストーリーを通し、人と芸術とのかかわりについて考えさせられた。私にとっては、芸術論の良い入門書となった。
しかし、本作品の一番の魅力は、そんな小難しいことではなく、ミステリ仕立てのストーリー展開と、優れた文章によって喚起される美しい情景である。短編で構成されてはいるが、それらはすべて最終章へとつながっており、主人公に感情移入することができれば、読者はラストで大きな感動を味わうことができると思う。
こんなすばらしい作品が、日本語でしか読めないなんて、実にもったいない。誰かが英訳し、全世界に紹介してくれることを切に願う。
どの話も文句なく面白かった。自信を持って満点を入れる。「永遠の森」も素敵だったが、個人的にはこちらを推したい。表題作はクローンを扱った話で、あり得たかもしれない自分、というテーマを実に見事に料理している。日本のSF作家で、今一番、旬な人はこの人ではないか。
'80年代初頭に映画化され大ヒットした「風の谷のナウシカ」を思い出した. その頃ようやく言われ始めた自然との共生エコロジーの考えを,設定や物語の根底に取り入れた斬新な作品で,ヒロインが少女,森や自然の大切さに気付き,自らの安全を省みない決心の行動で,多くの人々にそれを思い出させる共通点があった.
この菅浩江による初期の作品は,遺伝子による生物の進化がテーマとしてあるが,特に科学的展開や説明はなく,生態研究により生まれた化け物たちの蠢き闊歩し人間を襲うおぞましい自然に反する霧の闇と化した世界にて,鼠を喰う狂った巫女や村に表れた戦士により,ヒロイン姉弟たちの世界への復讐と悔悟とやり直しの物語として,強大な支配者と抵抗する心ある村人たちの戦いがファンタジー物語として見事に高まりを見せ描かれている. 感動的なラスト,ヒロインが自然の力によって妖精の女王として甦り,闇に挑んで勝ち取った自然の復権.様々な魚類の集まって擬人化した姿は,ナウシカで世界を滅亡させた巨神兵とは異なる疲弊した自然の摂理で発生したオウムの存在をどこか思い起させた.
最後の戦いでヒロインの語る言葉は,作者の自然への見方をそのまま表したものだろう. 「ゆっくりと前後にゆらぎを繰り返しながら進歩していくのが本当の姿なのよ」 ゆらぎは近年の科学世界に出た概念だが,最近のヒーリング精神世界で癒しの性質:自然界の法則としてもよく使われている.a波,1/4fのゆらぎなど,公式化,方程式にできない自由性,あそびやあいまいさに近い不確定性を指し,それがなければ人類の発生進化も,宇宙の相の様々な多様性もなかったと最新の宇宙物理学では言われている.万物の背後に隠れている全てを生かす性質を題に持ってくる所に,作者の人間性や,自然への誠実な思いが感じ取られた. …男性に劣らないSF探究者で,自然のかけがえのなさや共生の概念を大切にした,女性ならではのみずみずしい感性の放たれた本作は,「自然と人の調和と進歩の方向」を問いかけた秀逸な名作になるだろう.
同じハヤカワ文庫の短編集「雨の檻」を改題して、45 ページの短編「月かげの古謡」を加えたものです。 雨の檻をお持ちの方は、なあんだ、ということにならぬようご注意! ただし、月かげの〜は満足できる小品です。
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