2002年に講談社のベルスとして出たものの文庫化。
法月綸太郎の活躍する5編が収められた短編集。タイトルはエイドリアン・ドイルとカーの『シャーロック・ホームズの功績』から。
なかなかの出来の作品が多い。粒ぞろいでハズレがない。ただ、以前の作品に比べると論理構成で押していく傾向が強くなっており、合わない人もいるかも。 図書館の話はない。
一般的には受け付けない層もあるのだろう。しかし、自分にしてみれば、こんな楽しい小説もない。古典的なミステリ好きなら、泣いて喜ぶ仕掛けが随所に見受けられるし、根っからのSFファンにもたまらない作品である。タイトルを見てピンときた方なら、まず間違いはない、買いである。ただ、やや書店によって、扱いが雑になっている事が非常に不満だ。
十二星座にまつわる事件を、探偵・法月綸太郎が解く連作短編集〈星座シリーズ〉の後編。 天秤座から魚座までをネタにした6つの短編が収められている。 前編6作を収めた『犯罪ホロスコープI』が出てから5年弱。ようやくここに完結した。
読後の印象は、「やっぱりミステリ(特に謎解きメインの本格もの)ってこうだよな」という納得感。 一見、派手さはないけれど、1作1作、ストーリーにもトリックにも凝った仕掛けが施されていて、飽きさせない。 謎解きには、大きな驚きはないけれど、短編ならではの凝縮された切れ味がある。 現実にはあり得ないかもしれないが、論理的にはあり得るなら、成立する。それが本格謎解き。その論理の部分が、結構鮮やか。 6作どれも、最後の1行を読み終わった時、「なるほどなー」とか「そうくるかー」いう言葉が出る。上手い。 あと、少しだけど随所にちりばめられるペダンティズムも、ちゃんと本格派。 本格の醍醐味が、しっかり味わえるのである。
個人的には、凝ったトリックの「天秤座」(このネタ好きだなあ、法月さん)、異様な結末が面白い「水瓶座」が良かった(ラストも良いし)。 前編6作も「双子座」のような突出した傑作があって良かったけれど、今回の後編6作は、平均的に完成度が高い感じがした。
巷のテレビやら何やらで、突っ込み所満載のミステリ風作品を目にする機会が多い昨今、こういうきちっとした謎解きを読むと胸がすく。 そういうのと比べるのは失礼だが、さすが、プロのミステリ作家、しかも新本格の魁の一人だなと、あらためて思った次第である。
それにしても、法月探偵、探偵のジレンマは乗り越えた(ようだ)けれど・・・ 今度はアマチュア探偵という存在そのものが時代遅れだと感じているようで、またちょっと自虐気味になってたりする。 まあ、探偵のそういう所を読むのも、ファンとしては楽しいのだけれど。 でも、探偵、元気出してください!どんな時代だろうとまだまだ名探偵であり続け、怪事件・難事件に立ち向かってほしい。
このシリーズも本編だけでも50巻を超えました。毎回毎回素晴らしいミステリーの短編が紹介され、非常に楽しみなアンソロジーになっています。今回も、粒ぞろいの10作品が所収されています。
「ラストドロー」(石田衣良)「蕩尽に関する一考察」(有栖川有栖)「招霊」(井上夢人)「盗まれた手紙」(法月綸太郎)「瑠璃の契り」(北森鴻)「死者恋」(朱川湊人)「絵の中で溺れた男」(柄刀一)「走る目覚まし時計の問題」(松尾由美)「神国崩壊」(獅子宮敏彦)「Y駅発深夜バス」(青木知己)
どの作品を取っても本格ミステリーの楽しさを満喫させてくれます。
個人的には、「瑠璃の契り」の雰囲気が大好きです。
「蕩尽に関する一考察」「走る目覚まし時計の問題」の犯罪ではない軽さもいいです。
どの作品を取っても実に印象的な作品ばかりでした。
大森望監修の書き下ろしSFアンソロジー。2009年12月の第1弾から時を待たず、早いペースで刊行された第2弾。今回の寄稿者は以下12名。個人的にはほとんどハズレがなかった前作と対照的に、今回は残念ながらアタリが非常に少なかった。というわけで何かしら惹かれるところがあった作品の感想のみを以下に。
最大のお目当てはやはり津原泰水『五色の舟』
戦時下の日本を舞台に、各地を移動し興行する"見世物小屋"のモノたち(フリークス)の視点である日々が描かれる。彼・彼女らは総じて"異形"の持ち主であるのだけど、紙面からは悲壮感や絶望感といった強い感情は付随せず、悪くない倦怠感にも似た平穏さが印象的。ひどく人間的な機微を感じさせる化け物"くだん"と、分別ある語り口の下に細やかな感性を感じさせる畸形の"僕"、対照的にきわめて機械的な枠組みの中に統一され、一個のパーソナリティを感じさせない軍隊とが終局でメルトし、引き起こされるちょっとした恐慌のサマがなんともいえないニュアンスを生んでいる。
続いて好みだったのが恩田睦『東京の日記』
近未来のようでも過去のようでもある東京を舞台に、そこに滞在した外国人の手記の形で進む淡々とした物語。戒厳令下の東京、ながら、妙に他人事めいた緊張感のなさが不思議な空気を醸している。背後では何かが確実に起きているようであり、具体的には何も起こらない「日常」の描写の緩やかさに、ザワザワとした昂揚を感じた。
殺戮と暴力が跋扈し、通俗的なエンタメ性が高かったのが曽根圭介『衝突』で、これまた人間よりも感受性豊かなロボットが携わる形の終末的な群像劇に、なんともいやーな読後感に襲われた。読中読後の厭感、という意味では宮部みゆきの『聖痕』が断トツで、児童虐待という物凄く現実的で生々しい要素を、神だメシアだ預言者だといった超常的な事象を介入させることでドス黒い絶望感をいや増す手法、この救いの無さは、なんなんだろう。宮部みゆき作品はほんと久しぶりに読んだけど、昔日に覚えた上記のような感覚がまざまざと思い起こされましたわ。
面白かったものは以上かな。東浩紀『クリュセの魚』の静かで甘美な叙情性/センチメンタリズムや、短編ゆえにその幻想的な光景の空気を密に感じた西崎憲『行列(プロセッション)』も良かった。ただ最初に書いたように、今回大半の作品は、個人的な好みからは外れていた。表面的には一風変わったクセがあるんだが、何かこう、新しい感覚を刺激されるところが無いというか。とはいえ、異形コレクション同様、こうした書き下ろしアンソロジーがどんどん出回るのは凄く嬉しいけど
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